| プレスリリース |
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| 平成14年1月9日 独立行政法人 農業生物資源研究所 |
[背景・ねらい]
イネ白葉枯病はXanthomonas oryzae pv. oryzae (キサントモナス・オリーゼ)という細菌によって引き起こされる世界的に重大なイネの病害である。また、本病原細菌にはイネ品種に対して病原性が異なる数多くの菌グループが存在し、それらに対応した耐病性品種の育成が重要な課題となっている。そのため、我が国をはじめとして米国の大学、フィリピンにある国際イネ研究所などで耐病性品種育成のためにイネの側からの分子生物学的研究が進められている。例えば、イネ白葉枯病抵抗性遺伝子が農業生物資源研究所のイネゲノム研究チームと米国のカリフォルニア大学でそれぞれ単離されており、それらの抵抗性反応機構の解析が分子レベルで進展している。しかしながら、イネ側の分子レベルでの情報量に対して病原細菌側の情報量は少なく、植物−微生物相互作用解明の点で病原細菌側のゲノム情報が強く求められていた。そこで、イネ白葉枯病菌のゲノム解析によって病原細菌側のゲノム情報を蓄積し、病気を起こすメカニズムを解明することによって、植物−微生物双方の解析が可能となり、持続的な耐病性品種の開発や病原細菌に特異的にかつ効果的に作用する安全な農薬の開発が期待される。
[成果の内容・特徴]
独立行政法人農業生物資源研究所の遺伝資源研究グループは、ゲノム研究グループの協力を得て世界的に有名なイネ白葉枯病菌 Xanthomonas oryzae pv. oryzae (キサントモナス・オリーゼ)のゲノムをほぼ決定した。
植物病原細菌は、農業上重要な病原微生物でありながら、これまでゲノム解析はほとんど行われていなかった。そこで、当グループはイネ白葉枯病菌を対象としてそのゲノム解析を行った。イネ白葉枯病菌のゲノムの大きさは約5メガベースであり、ホールゲノムショットガン法によって全塩基配列をほぼ決定した。解読データから病原性に関連する遺伝子など総計約4,500個の遺伝子の存在が推定された。植物病原細菌に共通する遺伝子群セットや、病原性関連領域における本細菌に固有な領域の存在が明らかとなった。特に病原関連領域では繰り返し配列(トランスポゼースのホモログ)の挿入が顕著で、このことが多様な病原性を生む一因と考えられた。また、病原性関連領域では30個の新規の病原性関連遺伝子候補を見いだした。
[今後の展開]
今後の展開として、第一に系統的な遺伝子破壊解析を行い、イネ白葉枯病菌の個々の遺伝子機能の特定を目指す。細菌の生命サイクルに必要な遺伝子のみならず、特に、感染の鍵となる遺伝子の同定を目指す。これにより、感染の場におけるイネ白葉枯病菌の網羅的遺伝子発現解析が可能になる。また、病原性が異なる数多くの菌グループとの比較ゲノム解析を通して、遺伝子レベルで病原性の多様化機構に関する研究を進め、イネ白葉枯病の病原性の多様化に対応した抵抗性品種の育成や、ゲノム創農薬的展開によりイネ白葉枯病菌に特異的かつ効果的に作用する安全な薬剤の開発を図る。
本細菌のゲノム解析により、宿主であるイネと病原微生物双方のゲノム解析が完了する最初の例となり、植物−微生物相互作用の解明など科学分野への波及効果は図りしれない。

上の説明図をpdfファイルとしてダウンロードできます。
| 研究推進責任者: | 農業生物資源研究所 遺伝資源研究グループ長 栗ア純一 |
| 研究担当者: | 農業生物資源研究所 遺伝資源研究グループ 上席研究官 加来久敏 |
| 電話:0298-38-7470 | |
| 農業生物資源研究所 遺伝資源研究グループ 生物分類研究チーム 主任研究官 落合弘和 | |
| 電話:0298-38-7452 | |
| 広報担当者: | 農業生物資源研究所 企画調整部 広報普及課長 宮前正義 |
| 電話:0298-38-7004 |
| BAC: | バクテリア人工染色体の略称。大腸菌を宿主としたクローニングシステムで巨大DNA断片を安定に保持できる。イネゲノムやヒューマンゲノム等の解析において用いられているシステムである。 |
[掲載新聞]
| 2002/01/10: | 日本農業新聞、産経新聞、毎日新聞、化学工業日報、日経産業新聞、日本工業新聞 |
| 2002/01/14: | 日本農業新聞、日本食糧新聞、日経バイオテク |
| 2002/01/18: | 日本農民新聞 |
| 2002/01/23: | 農業共済新聞 |
| 2002/01/24: | 日刊工業新聞 |
| 2002/01/25: | 科学新聞 |