[農業生物資源研究所トップページ]  [プレスリリース]

プレスリリース
平成14年3月13日
独立行政法人 農業生物資源研究所
社団法人 農林水産先端技術産業振興センター
       農林水産先端技術研究所






6,591個のイネ遺伝子を位置づけた高密度遺伝子地図の作成

〜植物における最高密度の遺伝子地図〜



[背景・ねらい]

 今世紀中に予測される、世界規模での人口増加・環境変動による食糧不足に対応し、消費者の求める高品質なコメを育種するためには、約4万といわれるイネ遺伝子の働きを解明することが重要です。イネで実際に機能している遺伝子(発現遺伝子)が、ゲノムのどの位置にあるかを知ることは、良食味などの特定の形質を持つ系統を選抜する際の目印となるDNAマーカーの作出や有用な遺伝子の単離、イネゲノム全塩基配列解読を推進するために不可欠のものです。生物研とSTAFF研では平成3年度から9年度まで実施された第I期イネゲノムプロジェクトでこれら遺伝子の一覧の作成を目指し、のべ約4万個の発現遺伝子の部分塩基配列(EST)を決定しました。今回これらの発現遺伝子を8,500種類にグループ化し、このうち6,591個について、12本あるイネ染色体上のどの位置に存在するかを特定し、今後様々なゲノム解析を行う際の目印(遺伝マーカー)として利用できるようにした、植物における最高密度の遺伝子地図を作成しました。

[成果の内容・特徴]

 これまでイネゲノムプロジェクトにおいて、長いイネ染色体を断片化し、それらをYAC(酵母人工染色体)に組み込んで利用しやすい形態にし(クローン化)、各YACをイネ染色体上に張り付け、ゲノム全体の81%を再現した地図(YAC物理地図)を作成しています。今回はこれらのYACを各発現遺伝子の染色体上の位置決め(マッピング)に利用しました。発現遺伝子の一部と同じ塩基配列が各YAC上に存在するかどうか、特定塩基配列を増幅するPCR法を用いて確認した結果、合計6,591個の発現遺伝子がどのYAC上にあるかを確認し、その情報をもとに各発現遺伝子をゲノム上に位置づけました。平均6万5千塩基あたり1個の発現遺伝子を張り付けたことになり、発現遺伝子をこのように高密度に実験的に位置づけたのは高等生物では初めてです。
 発現遺伝子の位置を示した地図を利用した研究例としては、“イネわい性遺伝子(イネの丈を短くする遺伝子)”の単離があります。またこの高密度地図により、イネの12本の染色体における遺伝子の分布は一様ではなく、各染色体の両端に高密度、中央部に低密度に存在することが明らかになりました。さらにこれらの発現遺伝子は、イネゲノム全塩基配列解読用のPACやBACを用いた物理地図の作成に利用されています。今回発表された成果はPlant Cell誌2002年3月号に掲載される予定であり、イネゲノム研究チーム(RGP)のホームページ(http://rgp.dna.affrc.go.jp/publicdata/estmap2001/index.html)からも公開されています。

[今後の展開]

 現在我が国は国際イネゲノム配列解読コンソーシアム(IRGSP)の中心として、イネゲノムの全塩基配列の解読を行っています。全ゲノムのうち重要部分の高精度解読は2002年中に終了する予定であり、これらの配列が明らかになれば、ゲノム配列を基にした、より詳細な発現遺伝子地図が完成します。この地図を遺伝学研究・遺伝子機能研究に利用することによって、多くのイネ遺伝子の機能が明らかになり、複雑な生物現象を遺伝子のレベルで解き明かし、有用なイネを作出することや、他の穀類ゲノムへの応用が期待されます。

上の説明図をpdfファイルとしてダウンロードできます。

農業生物資源研究所 理事長 桂 直樹
研究責任者:農業生物資源研究所 理事 中島皐介
研究推進責任者:農業生物資源研究所 ゲノム研究グループ長 佐々木卓治
電話:0298-38-7066
研究担当者:農業生物資源研究所 ゲノム研究グループ 植物ゲノム研究チーム長 松本 隆
電話:0298-38-7441
農林水産先端技術研究所 研究第1部 主任研究官 呉 健忠
電話:0298-38-2176
広報担当者:農業生物資源研究所 企画調整部 広報普及課長 宮前正義
電話:0298-38-7004
共同研究機関:農林水産先端技術研究所 研究第1部長 江口恭三
電話:0298-38-2113



















[用語解説]
DNAマーカー:ゲノム上の塩基配列の多型に直接結びついているマーカー。分子マーカーとも言う。制限酵素で切断したDNA断片の長さの多型(RFLP)を指標にしたもの、PCRで増幅される特定の断片の有無や長さの違い等を多型として用いる。
YAC:数百キロベースにも及ぶ長大なゲノムDNA断片をクローニングするために、酵母を用いて開発された。YACベクターには酵母自立増殖配列(ars)、細胞分裂に伴うプラスミドの安定な分配に関わるテロメア、セントロメア配列があり、挿入DNAを酵母細胞中で増幅させることができる。

[掲載新聞]
2002/03/14:日本農業新聞、日本工業新聞、常陽新聞、化学工業日報
2002/03/15:日本農業新聞
2002/03/19:日経産業新聞