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(参 考)

この発表について

   平成16年12月に我が国を中心とする国際コンソーシアムは、イネ「日本晴」ゲノムの完全解読を達成しました。イネは世界人口の約半分の主食として人類に最も重要な食糧であり、そのためイネの正確なゲノム塩基配列は、悪環境でも育つイネを育成し、収量を増大させ、世界における食糧安定供給の基盤となる重要な情報となります。解析した塩基配列情報は既に公的データベースに公開されており、イネの草丈の制御、収量増大、脱粒性 など育種上有用な遺伝子の単離、新品種育成、正確な品種識別等の応用面で大いに役に立っています。また同時にトウモロコシやコムギなどの他の主要作物の重要な遺伝子の解析や育種研究への利用が期待されます。

   今回のイネゲノム塩基配列解析に関する論文が多くの科学雑誌で引用されたということは、本研究が世界から注目された重要な研究成果であり、かつ世界の多くの研究者に利用され、多くの成果を生み出している科学的に利用価値の高い成果であったことの明確な証拠といえます。

論文の被引用数について

   トムソンサイエンティフィック社は世界最大級の特許および学術文献情報データベース・分析システムを提供している会社です。同社のデータベースWeb of Scienceには約9,000誌の学術誌を対象としてその掲載論文情報および引用文献リストの情報が収録されており、その中から非常に多くの被引用数を集めた注目すべき最新論文を取り上げ、著者のコメントなどをホームページ(http://esi-topics.com/)で公開しています(平成18年9月13日現在)。今回のイネゲノム塩基配列解析に関する論文は、今年9月発表の植物・動物科学分野の特に注目される論文(New Hot Paper)として選ばれました。Hot Paperは過去2年間に発表された論文のうち、最近2ヶ月の被引用数の多さが上位0.1%のグループです。2ヶ月毎のデータ更新時に新たに選出されたHot Paperのうち、特に過去1年以内に発表された論文に限定して最も被引用数が高い論文が、22の分野それぞれのNew Hot Paperとして取り上げられます。

引用された論文について

   平成16年12月に国際イネゲノム配列解読コンソーシアムは、イネ「日本晴」ゲノムの完全解読を達成しました。我が国はイネの12本の染色体の内6本を担当し、全体で3億9千万からなる塩基対の配列のうち55%の解読に貢献しました。解読終了後、国際共同研究によって遺伝子の構造と機能、繰り返し配列や挿入配列と呼ばれる特殊な配列、他種生物のゲノムとの比較研究などイネゲノム構造の特徴を明らかにする解析を行い、その結果はネーチャー誌2005年8月11日号に発表されました。

   論文の概要は以下の通りです。

   イネには37,544の遺伝子が検出され、その29%は同じ遺伝子がゲノム上の非常に近い位置に重複して存在していることが明らかになりました。全体の71%(26,837個)は、既に解析された双子葉植物のシロイヌナズナの遺伝子と共通でしたが、8%(2,859個)は双子葉植物に似た遺伝子はなく、イネを含む単子葉植物に特徴的な遺伝子と思われます。

   イネゲノム中にはトランスポゾン(ゲノム中を転移できる塩基配列)配列が 25万個あり全体の35%を占めること、また細胞内小器官である葉緑体やミトコンドリアのDNAがイネ核ゲノムのDNA中に数万〜数十万塩基の単位で大規模に移行していることも明らかになりました。

   さらに、染色体の分配や対合に必須な領域であるセントロメアの全構造が、3本の染色体(第4、第5、第8)について明らかになったほか、タンパク質の暗号を持たない配列でありながらRNAに翻訳され、非コーディングRNAとして別の遺伝子の働きを制御する配列の存在も確認されました。