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 ■サイエンスキャスティング2012  レポート

 2012年8月16・17日に「サイエンスキャスティング」というプログラムで、遺伝子組換え研究センターの昆虫機能研究開発ユニット・奥田さんと遺伝子組換えカイコ研究開発ユニット・瀬筒さんのそれぞれのラボで、合わせて6名の高校生が研究体験をしました。
 「サイエンスキャスティング」はつくば国際会議場・株式会社JTB法人東京が主催の、高校生を対象とした科学研究体験企画で、2010年より開催されています。毎年、高校生は初日午後、つくば市内の研究機関の研究室で研究体験をし、学んだことをまとめ、次の日の午後に国際会議場にてプレゼンテーションを行います。生物研では、昨年よりサイエンスキャスティングで高校生を受け入れています。
 奥田さんのラボでは「ネムリユスリカの驚異的な乾燥耐性から学ぶ」という調査テーマで、2名の高校生が研究体験をしました。ネムリユスリカの幼虫は乾燥しても死なずに「乾燥休眠」という状態になります。水で“戻す”と生き返る、不思議な昆虫です。高校生はまず、ネムリユスリカに関する研究紹介のDVDを見た後、乾燥幼虫とそうでない幼虫の温度や有機溶媒に対する耐性の違いや、乾燥幼虫が水で“生き返る”時の水温の影響などを観察、測定しました。乾燥幼虫が生き返る様子は、ネムリユスリカが30秒間に喉の筋肉のぜん動運動の回数を数え、水を飲む量を評価します。元気に生き返ったネムリユスリカの活動は活発で、高校生は水を飲む回数を数えるのに苦労している様子でした。結果の考察が終わった後、奥田さんからネムリユスリカの持つクリプトビオシス(乾燥休眠)のメカニズムに関する研究成果の講義を受けました。実験結果を踏まえながらの説明のところどころに質問を織り交ぜながらのお話で、高校生も「あっ、そうか!」と少し難しいことに対しても自分で考えながら、お話を聞くことができました。宇宙船の船外の環境にも耐えることができる乾燥したネムリユスリカ幼虫、このクリプトビオシスのキーはトレハロースとLEAタンパク質、そしてガラス化とのこと。このメカニズムを利用して、医学や食品の分野等幅広い分野で貢献できる可能性があることもお話を聞きました。
 

観察の様子   説明の様子
顕微鏡を覗きながら、ネムリユスリカが水を飲む回数を数えます。 奥田さんからクリプトビオシスのメカニズムを実験結果のデータを踏まえて説明を受けます。

 

 一方、瀬筒さんのラボでは「遺伝子組換え技術で光るカイコをつくる」という調査テーマで、4名の高校生が研究体験をしました。4名中3名がカイコを見たことがないということでしたので、まずは卵から生まれたばかりのカイコや1齢〜5齢までのカイコの幼虫を観察しました。その後、瀬筒さんより遺伝子組換えカイコの作成方法や応用例などについて講義を受けました。
 1つめの実験はカイコの解剖です。カイコの解剖には蛍光絹糸を吐くように遺伝子組換え技術で品種改良したカイコを使いました。カイコは氷の上において動きを鈍くしてから、台にピンで留め、解剖していきます。高校生は最初、ハサミを入れることに躊躇している様子も見受けられましたが、いざ始まると、カイコの体のつくりをじっくりと観察し、指導にあたった研究員に質問をしていました。解剖したカイコの体内組織の観察の他、絹糸の素を作る絹糸腺の様子を蛍光顕微鏡で観察しました。また、遺伝子組換えカイコが作った繭から蛍光GFPを発現させた繭からGFPを溶出させる実験や、実際に細い金属性の針をつかったカイコの卵への遺伝子導入なども体験しました。カイコの卵への遺伝子導入は、卵の殻に一度小さな穴を開け、その穴に針を刺してDNA溶液を入れます。その作業は、最近になって、やっと誰でもができるようになりました。これまでも多くの高校生の体験実習を受け入れてきた瀬筒さんですが、この実験を高校生が体験できるようになったのはごく最近とのこと。今回参加した高校生は世界でも数少ない、カイコ卵への遺伝子導入を経験した高校生になりました。なお、これらの実験は遺伝子組換えカイコを扱うために「遺伝子組換え実験」となります。遺伝子組換えカイコを扱う専用の実験室で実験を行いました。
 

撮影の様子   説明の様子2
カイコの幼虫を初めてみる高校生も。プレゼン用の写真をみんなで撮影しています。 幅広い話題についてテンポよく、分かりやすい説明で、多少難しいながらも真剣に聞いていました。
実験の様子    
繭の一部を切り取り、抽出液に浸すと、絹糸の水溶性成分に含まれている緑色蛍光タンパク質(GFP)が溶けて、溶液が緑色に光りだします。  

 

 どちらのラボで体験実習した高校生も楽しみつつも新しいことをたくさん学び、研究者とたくさん会話をし、満足した表情で生物研を後にしました。広報室メンバーは残念ながら成果発表を聞きに行くことができませんでしたが、どちらのグループも良い発表ができたことと思います。