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 ■2013つくばちびっこ博士  開催レポート

 8月21・22日の午前・午後と4回にわたり、生物研本部地区 植物ゲノム解析棟のフロアにて、「ちびっこ博士2013 キミも昆虫博士!?〜夏休みに知ろう虫の研究〜」を開催しました。合計76名の小中学生が参加、生物研の研究とリンクした昆虫たちに触れ、楽しみながら実験をしました。
 「ちびっこ博士」とは、つくば市が毎年、小中学生の児童生徒向けの企画として、様々な科学技術に触れてもらうイベントです。市内にある、約40の研究機関・大学・企業が実験や見学のプログラムを準備して小中学生を迎え入れています。生物研も実験を含むプログラムを企画し、好評を博しています。
 今年は
  @ 「宇宙でも死なないスーパー昆虫!!ネムリユスリカってどんな虫」
  A 「当たればキミも昆虫博士!カメムシの臭い当てクイズ」
  B 「シロアリセルラーゼで紙を溶かしてみよう!」
  C 「比べてみよう!100年前のカイコ解剖図」
の4つのプログラムを企画しました。
 今年はティーチングアシスタント(TA)として、谷田部中学校、竹園東中学校の生徒さんたちが、参加した小学生の実験をサポートしてくれました。

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21日午前中のプログラムのお手伝いをしてくれた谷田部中学校のみなさん 植物ゲノム解析棟1階のフロアを利用して実施しました。

 

@ プログラム「宇宙でも死なないスーパー昆虫!!ネムリユスリカってどんな虫」
 ネムリユスリカは幼虫で乾燥すると休眠状態となり、低温・高温、放射線などに強い耐性があります。このプログラムでは、乾燥状態での低温耐性を実際に確認する実験を行いました。この実験では、昆虫機能研究開発ユニットの志村幸子さんが講師を務め、同ユニットの奥田隆さん、コルネット・リシャーさんが指導にあたりました。
 実験では、2mlサイズの試験管(マイクロチューブといいます)に、すでに水で戻ったネムリユスリカの幼虫と、巣の中に乾燥休眠状態でいるネムリユスリカをそれぞれ入れたものを用意しました。これを、各班のTAが手袋をして液体窒素に浸すことで低温状態を作り、その後、素早く室温に戻すために、お湯を各マイクロチューブに加えました。ネムリユスリカは水温が暖かいほうが早く戻りますので、さらに手で握りながらマイクロチューブ内を温めました。20分程温めたあと、マイクロチューブ内の様子を観察すると、すでに水で戻ったネムリユスリカは動かなくなってしまいましたが、乾燥休眠状態でいたネムリユスリカは水に戻ってクネクネと動き出しました。手で握って温めている間、どうして乾燥休眠状態のネムリユスリカが様々な環境に耐えられるのか、その1つのポイントがワカメやシイタケにも入っているトレハロースという糖であること、重量がほとんど無い宇宙環境でネムリユスリカの水戻りの様子を調査することなどのお話が志村さんからありました。このように、実験は簡単ですが、乾燥休眠状態のネムリユスリカのすごさを感じることができたプログラムだったと思います。

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TAとお話する講師の志村さん(右側) TAが手袋をして液体窒素にマイクロチューブを浸しました。
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ネムリユスリカの様子を観察。メガネをかけているのが指導をしてくれた奥田さんです。 ネムリユスリカの様子を観察。右から3番目がコルネットさんです。

 

プログラムA「当たればキミも昆虫博士!カメムシの臭い当てクイズ」
 このプログラムでは、昆虫成長制御研究ユニットの粥川琢巳さんが講師となり、カメムシの臭い当てクイズを行いました。最初に粥川さんから簡単にカメムシについての説明がありました。意外にも、アメンボやセミなどもカメムシの仲間で、日本には800種、世界には80,000種もいるとのことを教わりました。テーブルには三角フラスコに、チャバネアオカメムシ、マルカメムシ、クサギカメムシ、ホオズキカメムシがそれぞれ入ったものが用意されました。「?」マークのマイクロチューブに入ったカメムシの臭いをかいだ後、三角フラスコに入った4種のカメムシをそれぞれかいで、どのカメムシのにおいか当てるクイズをしました。チャバネアオカメムシ、マルカメムシ、クサギカメムシは思わず顔をしかめてしまうようなくさい臭いでしたが、ホオズキカメムシは青リンゴ系のいい臭いがしました。カメムシと一口にいっても、色、形、そして臭いが種類によってこんなにも違うのか体験できたプログラムでした。

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講師の粥川さん。 それぞれのフラスコに3〜4匹のカメムシが入っていました。
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写真上、白いラックの左下に「?」マクロチューブの中に、4種類のうちのいづれかのカメムシの臭い成分が入っていました。 一緒に来所したお母さんたちも一緒に、カメムシの臭いあてに参加しました。

 

プログラムB「シロアリセルラーゼで紙を溶かしてみよう!」
 このプログラムでは、シロアリの消化液に含まれるセルラーゼの活性を確かめる実験を行いました。講師は昆虫機能研究開発ユニットの渡辺裕文さんがつとめ、同ユニット長の宮澤光博さんが指導にあたりました。
 セルラーゼとはセルロースという紙やパルプなどの繊維の元になる物質を分解する酵素です。シロアリは木材を食べます。食べた木材を消化(分解)するために自分自身のセルラーゼと、シロアリの消化管内に住んでいる原生生物のセルラーゼの2つを利用しています。今回は、セルロースが分解されてできるグルコースの量を調べることで、シロアリが本当に紙を分解できるかどうかを確認する実験を行いました。
 実験には、沖縄や台湾に生息しているコウシュンシロアリという、体長が1センチ程度の大きなシロアリを使いました。研究者が西表島のマングローブ林で採集してきたのだそうです。
 実験では、マイクロチューブ内のシロアリをすりつぶし棒ですりつぶすところから始まりました。その後も、遠心分離機にかけて上澄みだけをうまく別のマイクロチューブに移したり、反応液を加えたりするなど、操作が多い実験でしたが、渡辺さんの指示やTAのサポートにより、参加者のみなさんはうまく実験を進めていました。操作の最後は、それぞれ中身の異なるA、B、Cのマイクロチューブに反応液(今回は糖尿病の検査薬を利用しました)を加え、手であたためながら、溶液が赤くなるかどうか、確認しました。シロアリや共生原生生物のセルラーゼが働いてグルコースができていると、反応後に加えるグルコース検出試薬が働き、溶液の色が赤くなるのです。Aにはシロアリを潰した上澄み液とティッシュペーパーが、Bには精製水とティッシュペーパーが、Cにはシロアリを潰した上澄み液だけが入っていました。結果は、AとCが赤くなり、Bは赤くなりませんでした。

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講師の渡辺さん。 TAのみなさんが実験のサポートをしてくれました。

 

 最後に、参加者のみなさんが渡辺さんからの質問に答えながら、実験結果の解説を受けました。Aはシロアリと共生原生生物のセルラーゼがティッシュペーパーを分解しますので、溶液はもっとも赤くなります。Cにはティッシュペーパーが入っていませんが、Aより弱く赤くなりました。これは、シロアリが生きている間に作ったグルコースに反応液が反応したためでした。Bは精製水でティッシュペーパーは分解されませんので、赤くなりませんでした。日頃、研究者は実験するときには反応が起きないとわかっているサンプル(今回の実験のB)や、必ず反応が起きるサンプルなども一緒に処理をして、目的のサンプルがどのくらい、あるいはどのような反応が起こっているのかを確認します。このように、条件や結果があらかじめ分かっているサンプルを対照(コントロール)といい、科学実験を行うにはとても重要な考え方です。こういったことについても、渡辺さんは触れながら解説をされました。
 実はこのプログラムのTAのみなさんは、午前中に渡辺さんから細やかな実験指導を受けていました。その甲斐もあり、比較的操作が多い実験もスムーズに進みました。

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インキュベーターにマイクロチューブを入れて酵素反応を起こさせました。 午前中、別室で渡辺さんの指導を受けるTAのみなさん。

 

プログラムC「比べてみよう!100年前のカイコ解剖図」
 最後にカイコの幼虫やさなぎなどを見たり触れたりしながら、100年前に書かれたカイコの解剖図の紹介を広報室の都島美行さんから聞きました。一緒に来られた親御さんたちも混じって、はじめはおっかなびっくりしながらも手にのせた時の少しひんやり冷たい感触も感じていたようです。

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講師の都島さん(写真中央)。100年前に作成された解剖図と本物のカイコを見比べてみました。 初めてみるカイコの幼虫。手に載せることはできたでしょうか?

 

 どのプログラムも昆虫、生き物を直接見たり、臭いを嗅いだり、触れたりできるプログラムでした。時には参加者の親御さん方も混じって実験結果の確認をすることもあり、親子で楽しめるプログラムでもあったと思います。