平成25年7月27日土曜日、生物研において「遺伝子組換え作物のほ場見学会 〜研究者とのコミュニケーションの集い〜」を開催しました。
生物研では、農業生産の現場や食料の安定確保などに貢献するために遺伝子組換えイネなどの研究開発を行っています。しかし、ただ行うのではなく、社会と共存していくために、研究者以外の様々な立場のみなさんの意見を聞いたり、質問に答えたりということを積み重ねて、しっかりとコミュニケーションをとりながら、研究を進めたいと考えています。
そこで、平成19年から「市民参加型展示ほ場」として、遺伝子組換え作物に関して市民と研究者とのコミュニケーションイベントを開催してきました。毎年、参加者のみなさんからイベントの継続を望む声をいただき、活動を続けてきました。また、参加者の感想として、研究者はもちろん、参加者同志の意見交換が有意義であり、意見交換の時間をもっと取って欲しかったとありました。そこで、今年は参加者のみなさんの声をできるだけ多く聞き、グループディスカッションの時間に重点を置いたプログラムで実施しました。
当日は暑い中、25名の方々の参加がありました。農家やバイオ企業の方々、食品の安全について地域で情報提供をされている方々、市民団体の方々など様々な立場の方が参加してくださいました。
まず、最初にイベントの趣旨など説明をしたのち、参加者、スタッフ全員が簡単な自己紹介をしました。趣旨説明では、遺伝子組換え研究推進室の田部井豊室長より、意見や主張の異なる人同志も、それぞれを認め合うこと、共存を目指してコミュニケーションを取りたいという話がありました(下図)。
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当日、開催趣旨の説明に使用したスライド。様々な立場や考え方を持つ人々が理解し合い、共存するための場を作りたいということを伝えました。
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その後、会議室から野外のほ場(畑)に移動、遺伝子組換え作物を栽培しているほ場(畑)や作物の観察を行いました。この日、参加者のみなさんには、スギ花粉症治療イネの栽培試験をしていた「隔離ほ場」と、日本国内の一般農家での栽培も許可されているダイズやトウモロコシが栽培していた見学用の「展示ほ場」の2か所のほ場を見学していただきました。
隔離ほ場の前では、栽培していたスギ花粉症治療イネの説明の他、遺伝子組換え植物の試験栽培に必要な施設の概要を説明しました。隔離ほ場内で作業する際は、遺伝子組換え植物が管理されない状態で隔離ほ場外に出ないよう、専用の長靴を使用したり、作業後の農耕機械を外に運び出す時は念入りに水洗いするなどの説明を行いました。
展示ほ場では、除草剤耐性ダイズや害虫抵抗性トウモロコシの効果を確認してもらい、遺伝子組換え農作物の農作業上のメリットだけでなく、そもそも農作業が重労働であることなどの説明も行いました。小さい面積のほ場ながら、感覚的にも農家の方々の苦労を感じていた様子でした。
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隔離ほ場(左)と展示ほ場の見学の様子。
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当日は暑さも厳しかったため、予定より早めに野外の見学を切り上げ、会議室で冷たいお茶などを飲みながらクールダウンした後に、後半の講義での情報提供を行いました。話題は田部井室長から遺伝子組換え作物の栽培・利用の状況や安全性評価について、遺伝子組換えカイコ研究開発ユニットの河本夏雄主任研究員から遺伝子組換えカイコの研究紹介、耐病性作物研究開発ユニットの山崎宗郎主任研究員から農業環境技術研究所の隔離ほ場で栽培試験をしている複合病害抵抗性イネの紹介、の3つでした。遺伝子組換えカイコの紹介では、まずカイコについて知ってもらおうと、動画を見たり、カイコの幼虫(組換えではないカイコ)の実物を見たりしました。参加者のみなさんの中にはカイコの幼虫を初めて見る人も多く、説明した河本主研に質問が集中して、時間が足りなくなるくらいでした。
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田部井室長(左)と河本主研(右)の話題提供の様子。 |
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山崎主研の話題提供の様子(左)と生きた“お蚕さま”を興味深く観察する参加者の様子(右)。 |
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最後に、参加者のみなさんと、田部井・河本・山崎の各氏に加えて、安全管理室の立石室長や生体分子研究ユニットの若生俊行主任研究員等、4名の研究者を含むスタッフとともに、4つのグループに分かれてのディスカッションを行いました。今回のイベントには、遺伝子組換え作物や食品に対して強く不安を持つ方も多く参加していたため、研究者や農業者の方と意見や主張が合わない部分はありましたが、それぞれの立場で意見を出し合い、聞きあい、理解し合う時間となるよう、各班の進行役は工夫しながら進めました。
遺伝子組換え作物や食品に対する心配事についても質問や意見が多くありました。また、すでに遺伝子組換え作物や食品について良くご存じの方も多く、そういった方と研究者とのやり取りは、興味を持って参加してくれた中学生には難しく感じた様子で、今後のイベント開催時の参加者募集の方法などを工夫する必要を感じました。
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より充実した意見交換の場にするために話し合いのルール(左)を決め、4つのグループに分かれてディスカッションを行いました(右)。
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<アンケート調査について>
平成21年度に開催したイベントより、参加者のみなさんから事前・事後アンケートにご協力いただいています。今回も、開催趣旨説明の後と、会の終了間際にアンケートに回答していただきました。その結果をまとめましたので、紹介したいと思います。
今回の参加者25名のうち、23名の方から回答をいただきました。前述の通り、遺伝子組換え作物や食品に対して強く不安を持つ方や遺伝子組換え反対の立場で活動している人も含めてが10名以上参加していました。その方々は、ほとんどの質問に対して、不安であり反対の立場は変わりませんでしたが、それ以外の方々についてみると、実際に遺伝子組換え農作物を見て、安全性評価の仕組みのあることを知り、さらに意見交換をすることで、安全性などについては、イベント前には、「どちらともいえない」と回答していた方の一部で、事後には「どちらかと言えば安全」と回答するなどの変化が見られました。多くの方から貴重な意見をいただいているますので、今後の生物研の取組みに活かしていきたいと考えています。
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【問:あなたは、遺伝子組換え農作物は食べても安全だと思いますか?】
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【問:あなたは遺伝子組換え農作物を食べることに対して、どのように感じますか?】
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【問:遺伝子組換え農作物を研究開発するための試験栽培について、どう思いますか?】
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【問:日本国内における遺伝子組換え農作物の商業栽培について、どう思いますか?】
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【問:今回のイベントにおいて、印象に残った企画や情報の内容は何ですか?当てはまるもの全てお答えください。】
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【問:遺伝子組換え農作物について、何かイメージや考え方に変化はありましたか? 変化があった方は、何について、どのような情報や経験により変化したのかお答えください。((1)、(2)へ)
変化がなかった方は、その理由をお答えください。((3)へ) 】
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【問:どのような情報や経験により変化しましたか?当てはまるものを全てお答えください。】
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