レポーター遺伝子の利用による根粒菌の感染経路の追跡
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[要約]
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レポーター遺伝子として知られているβ−ガラクトシダーゼ(lacZ)遺伝子、またはβ−グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子を窒素固定細菌(根粒菌)に導入し、宿主植物根の細胞内への侵入・定着を可視的に捉まえた。
農業生物資源研究所・機能開発部・窒素同定研究室
[連絡先] 0298-38-8288
[部会名] 生物資源
[専門] 機能開発
[対象] 豆類
[分類] 研究
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[背景・ねらい]
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共生窒素固定反応は、根粒菌がその窒素固定機能を効率よく発揮できるように特殊に分化した根粒と呼ばれる組織内に侵入・定着することにより進行するが、根粒菌の感染する植物はマメ科に限られている。しかし、最近、マメ科以外のイネ、ナタネなどの植物にも根粒様構造を誘導することが可能となり、共生窒素固定系をマメ科以外の作物にまで拡大させようとする試みが活発になってきた。この研究を進めるためには、誘導された根粒様構造の内部に根粒菌が侵入・定着しているか否かを的確・迅速に調べる手法が必須と考えられる。そこで、レポーター遺伝子の利用を検討した。
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[成果の内容・特徴]
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β−ガラクトシダーゼ(lacZ)遺伝子をベクタープラスミドpRKR 290に組込み、1acZをコードしたベクタープラスミドpRKR 290を構築し、ダイズ根粒菌A1017に導入した。導入したlacZ遺伝子は根粒菌内で発現したが、同種の酵素がダイズ根の維管束にも発現したため、維管束周辺では両者を区別することが困難であった。
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ダイズ根の組織にはβ−グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子の発現がなく、GUS遺伝子をダイズ根粒菌61Aの染色体に挿入した61A124a菌のダイズ根への侵入経路と侵入後の細胞内での定着を光学顕微鏡下に鮮明に捉えることができた。
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[成果の活用面・留意点]
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根粒菌に導入した大腸菌由来のβ−ガラクトシダーゼと植物由来のβ−ガラクトシダーゼは隠ぺい剤処理で区別できるとされているが、ダイズ根ではその効果が認められなかった。GUS遺伝子挿入菌株を用いると、根粒菌の増殖、侵入、定着などを可視的に迅速に観察することが可能である。
(図)
[その他]
研究課題名:宿主根における根粒組織形成機構の解明
予算区分 :経常
研究期間 :平成6年度(平成2年〜7年)
発表論文等:(1) レポーター遺伝子利用による根粒菌の感染経路の追跡(その1)。
植物微生物研究会新潟大会講演要旨集、(1993)。
(2) レポーター遺伝子利用による根粒菌の感染経路の追跡(その2)。
日本土壌肥料学会京都大会講演要旨集、(1994)。
(3) 2,4-D誘導根粒の形成と菌の感染様式。植物微生物研究会岡山
大会講演要旨集、(1994)。
(4) Induction of nodule-like structures on oilseed rape by
inoculation with rhizobia in the presence of helper bacteria.
Soil Sci. Plant Nutr. 41(2),313-320(1995)
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