熱帯地域で探索したダイズ根粒菌の分類と温度反応特性


[要約]
 東南アジア各地より分離したダイズ根粒菌と日本を中心とする温帯産の根粒菌間の遺伝的類縁関係を調べた結果、従来1属2種(B. japonicum 種と B. elkanii 種)と考えられていたダイズ根粒菌は、少なくとも1属3種であり、熱帯に偏在する優占種が存在した。また、各系統に属する菌の根粒形成遺伝子の遺伝子発現率と温度の関係を調べた結果、各系統の根粒菌は異なった温度反応特性を持っていた。
農業生物資源研究所・遺伝資源第一部・微生物探索評価研究チーム
[連絡先]0298-38-7452
[部会名]生物資源
[専門] 遺伝資源
[対象] 微生物
[分類] 研究

[背景・ねらい]
 ダイズ根粒菌は Bradyrhizobium 属に分類される B. japonicumB. elkanii の2種の菌により構成されている。これら根粒菌はダイズと共生し、空中窒素を固定する。ダイズ種子中の全窒素成分の約40%は根粒菌が固定した窒素によりまかなわれるため、根粒菌の善し悪しによりダイズの子実生産は大きく左右される。そのため、窒素固定能力の高い優良根粒菌の探索とそれを用いた接種試験が欧米を中心に古くから行われている。近年、東南アジア諸国では温帯で育種された高収量のダイズが導入され、温帯産の優良根粒菌を用いた接種試験も積極的に行われているが、十分な効果は得られていない。このため、熱帯において共生能力の高い根粒菌の発見及び、それら根粒菌と温帯産菌との違いについて明らかにする必要があった。

[成果の内容・特徴]

  1. 東南アジア各地(タイ・インドネシア,マレーシア)より分離したダイズ根粒菌と日本を中心とする温帯産の根粒菌間の遺伝的類縁関係を制限酵素断片長多型データに基づき解析した。その結果、従来1属2種と考えられていたダイズ根粒菌は、少なくとも1属3種である(第1図)
  2. ダイズ根粒菌の優占種と考えられた B. japonicum 種は、温帯に偏在する種であり、熱帯には B. elkanii 種と共に、熱帯に偏在する優占種が存在することを見いだし、各根粒菌種ごとの生態的特異性を明らかにした(第1図)
  3. 生態的特異性が異なる3系統のダイズ根粒菌 USDA110(B. japonicum 種で温帯の優良接種菌の代表株)、USDA76( B. elkanii 種の代表株、TARC64(熱帯での優占種)の根粒形成遺伝子の遺伝子発現率(ベータガラクトシダーゼ活性で測定)と温度の関係を調べた結果、各系統の根粒菌は異なった温度反応特性を持っていた(第2図)

[成果の活用面・留意点]
 温帯で選抜された B. japonicum 種の優良接種菌は、熱帯環境下ではその根粒形成能力が抑制されるため接種菌としては有用でないこと、また、熱帯のダイズ栽培に適した窒素固定能力の高い接種菌は B. elkanii 種か熱帯固有種より選抜すべきである。

[その他特記事項]
研究課題名 :各国産ダイズ根粒菌の遺伝的特性の評価
予算区分  :経常
研究期間  :平成6年(平成4年−平成8年)
協力分担関係:国際農林水産業研究センター
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