イネとソルガムゲノムのシンテニー解析


[要約]
  イネとソルガムゲノム間の構造類似性(シンテニー)をイネDNAマーカーを用いて調べた結果、ソルガムゲノム全体の約70%がイネゲノムと共通であり、特にイネ第1染色体とソルガムG染色体には、広範囲にわたって類似したゲノム構造領域が存在し、38個のDNAマーカーが同一順序で配列していることが判明した。

農業生物資源研究所・分子遺伝部・ゲノム構造研究室

[連絡先]0298-38-7441 [部会名]生物資源・生物工学 [専 門]バイテク [対 象]稲類・飼料作物類 [分 類]研 究


[背景・ねらい]
  近年のDNAマーカーを用いた分子生物学的手法により、イネ科作物のゲノム間にはゲノム構造の類似した領域のあることが示唆されている。イネゲノムの成果を活用して飼料作物であるソルガムの遺伝地図作成を行い、イネとソルガムゲノム間の構造上の類似性を調べることは、ゲノムサイズが7億5千万塩基対とイネの約1.7倍の大きさをもつソルガムのゲノム解析において有効な手法になると思われる。ソルガムは、トウモロコシと並ぶイネ科の大型飼料作物で、日本においては九州を中心に約27,000ヘクタール栽培されており、耐病性、多収性、高品質化(消化性、嗜好性等の向上)、倒伏性の強化等の品種改良が望まれている。ソルガムゲノム(染色体数は10、A〜Jで表されている)のDNAレベルでの解析およびそれらの情報の蓄積は、将来のソルガム育種に有効に利用できるものと思われる。
[成果の内容・特徴]
  1. イネ由来のDNAマーカーは、ソルガムDNAに対しても非常によく結合することが判明した。
  2. イネの発現遺伝子由来のDNAマーカーを使って、約600個のマーカーをもつソルガム遺伝地図の作成に成功した(図1)。
  3. イネ遺伝地図とソルガム遺伝地図上の各DNAマーカーの位置の比較から、両ゲノム間には染色体レベルでの明確な類似性が認められ、遺伝地図レベルではソルガムゲノム全体の約70%がイネゲノムと共通した構造をもっていることが推定された(図2)。
  4. イネ第1染色体とソルガムG染色体には非常によく似たゲノム構造領域が存在し、38個のDNAマーカーが同一順序で配列していることが判明した。このことは、この領域に存在するイネの遺伝子の多くをソルガムゲノムが有していることを示唆している。
  5. 以上の結果から、イネゲノム解析で得られた成果は、ソルガムの遺伝子単離をはじめとするソルガムゲノム解析に有効に利用できることを示唆していると思われる。
[成果の活用面・留意点]
  本研究で得られた成果は、ソルガムで問題となっている病害の1つ、紋枯病抵抗性遺伝子の単離や育種目標である多収性・高品質・倒伏性の強化等の改良に利用できる。また、本成果はソルガムをはじめとする飼料作物のゲノム解析研究を飛躍的に加速させることが期待される。


[その他]

研究課題名:遺伝子分子地図の普遍性と可変性の検証                     DNAマーカーを用いた効率的選抜育種技術の開発 予算区分 :経常・バイテク[DNAマーカー] 研究期間 :平成10年度(平成7〜10年) 発表論文等:長村吉晃・田中孝尚・野澤ひふみ・海内裕和・春日重光・佐々木卓治(1998)       イネとソルガムゲノム間のシンテニー領域の解析 育種学雑誌 48(別1):91

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