細胞伸長に関わるオーキシン受容体は細胞増殖を抑制する


[要約]
原形質膜オーキシン受容体の構成成分と考えられるオーキシン結合タンパク質1(ABP1)の部位特異的変異が、細胞の伸長成長におけるオーキシン応答性を弱め、細胞増殖におけるオーキシン感受性を高めた。この現象は、細胞伸長と細胞増殖にはそれぞれ異なるオーキシン受容体が関与していることを示している。

農業生物資源研究所・生物工学部・分化制御研究室

[連絡先]0298-38-8388 [部会名]生物資源・生物工学 [専 門]バイテク [対 象]植物 [分 類]研究


[背景・ねらい]
オーキシンは形態形成や成長調節において重要な役割を担う植物ホルモンのひとつとして古くから研究されてきたが、その作用機構やシグナル伝達機構に関してはほとんど明らかにされていない。機構解明を複雑困難にしている理由のひとつとしては、多様な生理作用を示すことであると考えられる。すなわち、オーキシンは細胞増殖、伸長成長、分化誘導など細胞の種類に依存して種々の作用を示す。このような異なるオーキシン応答に対してそれぞれに特異的なオーキシン受容体が存在するのか、あるいは、共通の受容体を介するがシグナル伝達経路の下流域においてそれぞれの応答に特異的な経路に分枝しているのかを明らかにすることが重要であると考えられる。

[成果の内容・特徴]
  1. 原形質膜受容体の構成成分と考えられているABP1への変異効果について検討した。ABP1において保存されているアミノ酸残基11カ所についてsingle point mutationを導入した。変異ABP1を過剰蓄積する組換え体は形態異常を示さなかったが、オーキシン応答性に異常が見られた(図12)。
  2. 応答異常は変異部位に依存しており、応答異常を示す6カ所の残基はいずれもオーキシン結合部位を構成すると考えられる領域に存在する(図12)。
  3. 変異は細胞の活動状態により異なる作用を示し、細胞分裂が活発に行われているカルスにおいてオーキシン感受性を10倍高めたが(図1A)、分裂が休止した成熟葉の細胞ではオーキシン応答性を顕著に弱めた(図2)。カルス増殖はサイトカイニンにも依存しているが、サイトカイニン感受性には変異効果が見られなかった(図1B)。成熟葉の細胞ではオーキシン依存性の伸長成長が野生型ABP1の過剰蓄積により促進された(図2)。
  4. 上記の結果から、オーキシンに依存した細胞増殖と細胞伸長はそれぞれ異なる受容体によって調節されており、細胞伸長に関与する受容体は伸長時には不用な細胞分裂を抑制する作用をもつことが示唆された(図3)。ABP1が細胞伸長に関与する受容体の可能性が示されたが、ABP1は伸長成長が行われている組織に局在することと矛盾しない。
[成果の活用面・留意点]
オーキシン作用の多様性が受容体に基づくことが示されたことにより、作用機構やシグナル伝達機構を解析するための方向付けがなされたものと思われる。


[その他]

研究課題名:オーキシンシグナル伝達と形態形成 予算区分:科・総合研究(植物ネット) 研究期間:平成11年度(平成9〜11年) 発表論文等: 1) Watanabe, S. and Shimomura, S. (1998) Cloning and expression of two genes encoding auxin-binding proteins from tobacco. Plant Mol. Biol. 36: 63-74. 2) Shimomura, S., Watanabe, S. and Ichikawa, H. (1999) Characterization of auxin-binding protein 1 from tobacco: content, localization and auxin-binding activity. Planta 209: 118-125.

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