葉緑体熱ショック蛋白質の構成的発現による植物のストレス耐性の改良


[要約]
葉緑体内で分子シャペロンとして作用する低分子量熱ショック蛋白質を構成的に発現させるこ とにより、植物の高温ストレス耐性光酸化ストレス耐性が改良された。
農業生物資源研究所・生理機能部・光合成研究室
[連絡先] 0298-38-7074
[部会名] 生物資源・生物工学
[専門]  バイテク
[対象]  タバコ
[分類]  研究

[背景・ねらい]
 環境ストレスによる植物の傷害の多くのものは、光酸化ストレスに起因している。これは、環境ストレスで葉緑体内の光合成系、特に光化学系と電子伝達系の機能が損なわれ、吸収した光エネルギーの一部が反応性の高いラジカルや活性酸素として放出されるためである。本研究の目的は、葉緑体内で分子シャペロンとして作用する葉緑体局在性低分子量熱ショック蛋白質(smHSP)を構成的に発現させることによって、光合成系のストレス耐性ひいては植物のストレス耐性を改良することである。

[成果の内容・特徴]
  1. タバコsmHSP cDNAをCaMV 35Sプロモーターに連結したキメラ遺伝子をタバコに導入し、smHSPを構成的に発現する形質転換タバコを作出した。
  2. smHSPの構成的発現によって、幼植物の高温耐性(図1)と光酸化ストレス耐性(図2)が改良される。
  3. smHSPの構成的発現によって、成熟葉の光合成の高温失活、すなわち、葉緑体ストロマ中の可溶性蛋白質であるRubiscoアクティベースとチラコイド膜中の光化学系の高温失活がともに抑えられる。

[成果の活用面・留意点]
  1. smHSPの構成的発現によるストレス耐性の改良は、すべての植物に適用可能である。
  2. ストレス条件下での植物の生育に対するsmHSPの効果を検討する必要がある。

[その他]
研究課題名 :高温ストレス蛋白質遺伝子の単離と形質転換による機能解析
予算区分  :バイテク(バイテク育種)、生研基礎研究
研究期間  :平成12年度(平成6〜12年)
研究担当者 :徳富光恵
発表論文等 :1)Lee, B.-H., Tanaka, Y., Iwasaki, T., Yamamoto, N., Kayano, T. and Miyao, M.(1998)Evolutionary
        origin of two genes for chloroplast small heat shock protein of tobacco. Plant Mol. Biol. 37:
        1035-1043.
       2)Lee, B.-H., Won,S.-H., Lee, H.-S., Miyao, M., Chung, W.-I., Kim, I.-J.and Jo, J.(2000)Expression of
        the chloroplast-localized small heat shock protein by oxidative stress in rice. Gene 245: 283-290.
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