肝細胞接着性を有するラクトース修飾絹フィブロイン


[要約]
  肝細胞によって認識されるβ-ガラクトース残基を持ったラクトースを化学修飾により固定化した絹フィブロインを作出した。本来の絹フィブロインがラット肝細胞の接着を阻害するのに対し、ラクトース修飾絹フィブロインはコラーゲンに匹敵する高い接着性を示した。
農業生物資源研究所・昆虫新素材開発研究グループ・生体機能模倣研究チーム

[連 絡 先]029−838−6126
[分    類]知的貢献
[キーワード]ラクトース修飾絹フィブロイン、ガラクトース残基、ラット肝細胞、接着性


[背景・ねらい]
  肝実質細胞(肝細胞)の細胞膜表面にはβ-ガラクトース(β-Gal)残基を特異的に認識し細胞内に取り込むためのアシアロ糖タンパク質レセプターが存在することが知られ、近年β-Gal残基を導入した合成高分子を肝細胞培養基材や薬物運搬体に利用する試みが行われている。本研究では、天然の構造タンパク質である絹フィブロイン(SF)をラクトース(Lac)分子で化学修飾することでβ-Gal残基をSFに固定化し、ラット肝細胞の初期接着性を調べた。これによって、SFを新たに肝細胞培養基材に応用するための基礎的知見が得られる。

[成果の内容・特徴]
  1. ラクトース修飾絹フィブロイン(Lac-CY-SF)の作製は、塩化シアヌル(CY)をスペーサーに用いてのLacによるSFのチロシン・リジン残基への化学修飾によって行った(図1)。
  2. Lac-CY-SFの1H-NMRスペクトルのピーク積分値と、LacとSFの混合物及びSFの1H-NMRスペクトルのピーク積分値の比較から、Lac-CY-SFにおいてLac含有量が約17重量%であることを推定した。
  3. 試料コートした培養ディッシュ上でラット肝細胞をWilliams’ E培地中で2.5時間培養を行った結果、SFでは0.01%濃度の水溶液でコートした基材でも肝細胞の接着を阻害するのに対して、Lac-CY-SFでは0.1%濃度以上の水溶液から作製した基材上でコラーゲンコートディッシュに匹敵する接着性を示した(図2)。この結果は、肝細胞がSFに共有結合的に導入されたLacのβ-Gal残基を認識・接着したことを意味する。

図1

図2
[成果の活用上の留意点]
  0.1%濃度以上の水溶液から作製したLac-CY-SFコートディッシュが肝細胞培養基材として有望であることが示されたが、実用化のためにはさらにLac-CY-SF基材上での肝細胞の中長期培養による形態・機能変化を調べる必要がある。

[その他]

研究課題名    :分子認識分子等の固定化技術開発とその評価
予算区分      :交付金
中期計画課題コード:C2111
研究期間      :01〜03年度
研究担当者    :後藤洋子、〔新見伸吾、早川堯夫(国衛研)〕、宮下徳治(東北大多元研)
発表論文等    :1)後藤洋子、新見伸吾、早川堯夫、宮下徳治(2001)高分子学会ポリマー
             材料フォーラム講演要旨集、p. 297-298.
            2)後藤洋子、新見伸吾、早川堯夫、宮下徳治(2003)第52回高分子学会年
             次大会発表予定

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