カイコ受精卵の長期保存法
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[要約]
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カイコ受精卵を2カ年保存する方法を開発した。産卵後の高温保護を60日間行った後、20日と短期間で−2.5℃に移行させて370日間貯蔵する。その後、5℃に90日保護し、中間手入れ(10〜15℃、9日間)を行い、0℃に120日間再冷蔵する方法である。
農業生物資源研究所・昆虫生産工学研究グループ・新蚕糸技術研究チーム
[連 絡 先]0263−32−0572
[分 類]農業生産、生物産業
[キーワード]カイコ、受精卵、2カ年保存、長期保存法、中間手入れ
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[背景・ねらい]
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現在、一化性及び二化性カイコの系統保存を行うには、1年に1回は飼育して継代する必要があるため、多大の時間と労力を要している。系統保存の省力化をはかるには、2カ年サイクルで飼育が可能となる系統保存法が最も有効になるので、そのための受精卵の長期保存法の開発が求められていた。従来の確立された蚕種保存技術としては、休眠を覚醒した活性卵の長期冷蔵法として、採種から最長16〜17ヶ月間は保護できる複式冷蔵法がある。この方式に従えば、春に採種したものを翌年秋に飼育することは可能であるが、2カ年サイクルでの飼育は不可能である。また、受精卵を2カ年間保存する従来の研究では、細かく温度を変えたり、中間手入れを6回施すなど、貯蔵工程が極めて複雑であるばかりでなく、高い孵化率も得られていない。そのため、高温保護した後、休眠胚子に進んでいない状態の蚕種について、直ちに冷蔵段階へ移行する方法に重点をおき、なるべく単純な冷蔵方式による長期保存法を検討した。
- [成果の内容・特徴]
- 産卵後の高温(25℃)保護を2ヶ月間行った後、20℃、15℃、10℃、5℃の4段階に各5日間、0℃に10日間経過させて、−2.5℃に368日間冷蔵する。その後、胚子の活性化をはかるため、5℃で90日間保護し、中間手入れ(10℃:2日、15℃:4日)を行った後、0℃に120日間再冷蔵する。卵の催青日数(15日)と幼虫・蛹の期間(40日)を加えると、第1世代の孵化から第2世代の孵化までが丁度、2カ年になる(図1)。
- 既存の複式冷蔵法と最も大きな違いは、高温保護から冷蔵に至る期間を著しく短くして胚子のエネルギー消費が少ないうちに冷蔵したことであり、また、既報の長期冷蔵試験に比して貯蔵中の温度変化回数および中間手入れ回数を格段に少なくし、貯蔵工程は単純化・簡易化されており、作業は容易である。
- 供試した4種の交雑種の孵化率はほぼ90%(87.6〜90.9%)である(表1)。

図1 |

表1 |
- [成果の活用上の留意点・波及効果・今後の展望]
- 交雑種の蚕種は採種後、2カ年間は随時、孵化させることができるできるので、蚕種の効率的な利用が可能である。
- 受精卵の長期保存の基礎的技術が出来たので、カイコ遺伝資源や実用品種の維持・保存の飼育が2年サイクルで行える展望が開かれ、系統保存の業務が半減されるものと期待される。
[その他]
研究課題名 :特異な繭糸質を有する蚕品種の育成及び飼育技術の確立
予算区分 :交付金
中期計画課題コード:C4112
研究期間 :01〜05年度
研究担当者 :飯塚哲也、間瀬啓介、山本俊雄
発表論文等 :特許出願 特願2003-057940
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