イネ種子を基盤とする経口コレラワクチンの開発
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[要約]
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コレラワクチンを種子に蓄積する遺伝子組換えイネを開発した。このイネの種子をマウスへ経口投与した結果、コレラ毒素に対する防御抗体が産生され、下痢の症状が抑えられたことから、経口コレラワクチンとしてのイネ種子の有効性が明らかになった。
農業生物資源研究所・遺伝子組換え作物開発センター
[連 絡 先]029-838-8373
[分 類]技術開発
[キーワード]遺伝子組換えイネ、種子、経口ワクチン、コレラ
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[背景・ねらい]
- コレラ毒素は、下痢や嘔吐を引き起こす A サブユニットと、毒素の腸管粘膜への結合を促進する B サブユニット (CTB) から形成される。このうち、単独で存在する状態では毒性を示さない CTB は、コレラ感染を予防するための有効かつ安全な経口ワクチンとして注目され、CTB を経口投与するヒト臨床試験も実施されている。そこで本研究では、農業生物資源研究所が保有するイネの遺伝子組換え技術を活用して、種子の中に CTB を蓄積する遺伝子組換えイネを開発するとともに、東京大学医科学研究所との共同研究として、イネ種子をマウスへ経口投与する試験を行い、経口コレラワクチンとしての CTB を蓄積するイネ種子の有効性を評価した。
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[成果の内容・特徴]
- イネ種子貯蔵タンパク質であるグルテリンのプロモーターを利用して、イネ種子中に CTB を蓄積させるためのプラスミドを作製し(図1)、遺伝子組換えイネを作出した。
- CTBを蓄積するイネ種子の有効性を評価するため、マウスへの経口投与試験を実施した。その結果、CTBを蓄積するイネ種子の経口投与により、コレラ感染の防御に必須である腸管粘膜表面への抗 CTB IgA 抗体の分泌が誘導された (図2)。
- さらに、CTB を蓄積するイネ種子を経口投与したマウスでは、コレラ毒素による下痢の症状が顕著に抑えられた (図3)。これらの結果から、経口コレラワクチンとして、CTB を蓄積するイネ種子の有効性が明らかになった。
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[成果の活用上の留意点、波及効果、今後の展望等]
- 本研究により、低コストで負担の少ない、新しい経口ワクチンの生産・投与方法としてのイネ種子の利用可能性が示された。また、未だ不明な点の多い腸管免疫応答に関する基礎医学的研究にも、新規素材の提供を通しての貢献が期待できる。
- 東南アジア、アフリカ、南米などの開発途上国において、安価で容易なコレラ感染予防の実現に貢献でき、遺伝子組換え技術・遺伝子組換え農作物の開発にもつながることが期待される。
- 今後の実用化へ向けては、イネの野外栽培試験に加えて、臨床試験が必要である。
[具体的データ]
[その他]
研究課題名 :健康機能性作物や有用物質高度生産技術の開発
予算区分 :アグリバイオ
中期計画課題コード:C12
研究期間 :2004〜2007年度
研究担当者 :高岩文雄、高木英典、楊麗軍
発表論文等 :Nochi T, Takagi H, Yuki Y, Yang L, Masumura T, Mejima M, Nakanishi U, Matsumura A, Uozumi A, Hiroi T, Morita S,
Tanaka K, Takaiwa F, Kiyono H (2007) Rice-based mucosal vaccine as a global strategy for cold-chain- and needle-free
vaccination.
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 104(26):10986-10991.
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