遺伝子組換えカイコを利用したネコインターフェロンの生産


[要約]
遺伝子組換えカイコを用いてタンパク質生産をより効率的にするため、フィブロインH鎖遺伝子を利用した発現ベクターを作成し。ネコインターフェロンの生産を試みた。このベクターはフィブロインH鎖遺伝子のN末とC末の配列の間に目的とするタンパク質をコードする塩基配列を挿入するという特徴を持ち、目的遺伝子をカイコに導入しところ、大量のタンパク質を生産できることが分かった。また、プロテアーゼの切断部位を利用することにより、活性の高いネコインターフェロンを調製できることが示された。

農業生物資源研究所・遺伝子組換えカイコ研究センター 東レ・先端y

[連 絡 先]029-838-6091 [分   類]生物産業 [キーワード]遺伝子組換えカイコ、有用物質生産、絹糸腺、ネコインターフェロン


[背景・ねらい]
遺伝子組換えカイコを用いたタンパク質生産系には、これまで酵母のGAL4/UAS系やカイコの核多角体病ウイルスのIE1とその標的配列hr3を利用したもの、フィブロインL鎖遺伝子を用いた方法等が開発されている。しかしながら、タンパク質の生産量が最も多いフィブロインH鎖の遺伝子を利用して、活性のある組換えタンパク質を後部絹糸腺において作る方法についてはまだ十分研究が進んでいない。本研究では、フィブロインH鎖遺伝子を利用したベクターを作成し、このベクターを用いて、ネコインターフェロンの生産が可能かどうかを検討する。

[成果の内容・特徴]
  1. ネコインターフェロンをコードする塩基配列をフィブロインH鎖遺伝子に挿入したベクターを構築した(図1)。
  2. このベクターを利用してネコインターフェロン遺伝子を挿入した組換えカイコを作出した。
  3. 得られた遺伝子組換えカイコが作る繭を溶かし、SDS-PAGE及びウェスタンブロッティングによって発現量を調べた結果、大量のタンパク質が発現していることが分かった。
  4. しかしながら、インターフェロンとしての生理活性は低かった(図2)。
  5. そこで、ネコインターフェロンの前後にプロテアーゼによる切断される配列を挿入し、この配列を持つ遺伝子組換えカイコを作出した。このカイコが作る繭から精製したタンパク質をプロテアーゼで処理した結果、活性の高いネコインターフェロンが得られた(図2)。
[成果の活用上の留意点、波及効果、今後の展望等]
  1. カイコの後部絹糸腺でも大量の組換えタンパク質の生産が可能であることが分かった。
  2. 組換えカイコで生産されるネコインターフェロンがフィブロインH鎖との融合型になるため、精製後プロテアーゼ処理を行う必要がある。この方法が適用できるタンパク質の種類は限られると考えられる。

[具体的データ]
図1 遺伝子組換えカイコでネコインターフェロンを作るために用いたベクタープラスミド構造 a.プロテアーゼの切断部位を持たないベクター(StFeIFN)。b.プロテアーゼによる切断部位のあるベクター(PreFeIFN)。FeIFNはネコインターフェロン遺伝子。矢印はトランスポゾンの逆位末端反復配列。
図1 遺伝子組換えカイコでネコインターフェロンを作るために用いたベクタープラスミド構造
    a.プロテアーゼの切断部位を持たないベクター(StFeIFN)。b.プロテアーゼによる切断部位の
    あるベクター(PreFeIFN)。FeIFNはネコインターフェロン遺伝子。矢印はトランスポゾンの逆位
    末端反復配列。
図2 繭から抽出したタンパク質のSDS-PAGE(a)とネコインターフェロンの活性(b)StFeIFN とPreFeIFNは図1参照。
図2 繭から抽出したタンパク質のSDS-PAGE(a)とネコインターフェロンの活性(b)
    StFeIFN とPreFeIFNは図1参照。

[その他]

研究課題名    :「カイコによる組換えタンパク質の大量発現システムの構築」及び「組換えカイコによるサイトカイン生産技術の開発」 予算区分     :昆虫ゲノム 中期計画課題コード:C13 研究期間     :2007〜2011年度 研究担当者    :生物研;田村俊樹、米村真之、飯塚哲也、立松謙一郎、瀬筒秀樹、小林功、東レ;栗原宏征、山田勝成 発表論文等    :Kurihara H, Sezutsu H, Tamura T, Yamada K (2007) Production of an active feline interferon in the cocoon of transgenic
          silkworms using the fibroin H-chain expression system. Biochemical and Biophysical Research Communications 355(4):976-980.

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