イネいもち病菌EST配列を用いた高精度遺伝子同定とデータベース構築
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[要約]
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イネいもち病菌のESTを35,189配列解読し、その配列を用いて4,155の遺伝子情報を詳細に決定した。解読したEST配列、決定した遺伝子座及び関連解析の結果はデータベースに格納し、ウェブサイトを通して公開している。
農業生物資源研究所・基盤研究領域・ゲノム情報研究ユニット
[連 絡 先]029-838-7065
[分 類]知的貢献、技術開発
[キーワード]イネいもち病菌、EST、データベース、遺伝子予測、アセンブル
[背景・ねらい]
- いもち病は深刻な被害をもたらすイネの病害であり、その原因であるイネいもち病菌は世界的に重要な病原菌として知られている。2005年にイネいもち病菌の全ゲノム配列が解読され、ゲノムレベルで大規模に遺伝子研究を行うことが可能になってきたが、遺伝子機能解析を行うためにはゲノム配列上での遺伝子の詳細な位置、構造や機能の正確な情報が必要である。これは、cDNA及びそこから読み取られたESTの配列を用いることによって初めて可能となる。そのため、ESTのような転写産物データを大量に利用し、遺伝子領域を厳密に確定できることが重要である。そこで本研究では、イネいもち病菌のESTを大量解読し、それを用いて正確な遺伝子構造の構築をゲノム配列上で網羅的に行うとともに、この情報をイネいもち病菌の研究者が簡便に利用できるデータベースを開発、公開した。
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[成果の内容・特徴]
- イネいもち病菌cDNAクローンを作成し(計18,821クローン)、5'および3'両端ESTの塩基配列決定を行った。解読したEST配列(計35,189配列)はDDBJを通じて国際DNAデータバンクに登録した。これにより、国際DNAデータバンクのイネいもち病菌ESTが一気に約66%も増加したことになる。特に、今回登録したESTのうち実に49.4%はデータバンク中の既存のESTに全くヒットせず、完全に新規の配列を極めて多く含むことがわかった。
- 解読したESTをゲノム配列と遺伝子予測プログラムを利用して再構成し、最終的に4,155遺伝子座を決定した。この遺伝子座に含まれるタンパク質コード領域3,891(表1)の全長性を、既知のタンパク質と比較することによって検証し、少なくとも約87%は完全長のタンパク質であるである(断片ではない)ことが示唆された。
- コンピューターによる遺伝子予測は誤りを多く含む。そこで、ゲノム配列を公開しているBroad Instituteの遺伝子予測と比較したところ、我々が今回同定した17,639のスプライス部位のうち4,882(27.7%)は全く新規であることが明らかになった。我々のEST解析によってゲノム上の遺伝子構造が飛躍的に正確になった。
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EST配列、構築した遺伝子座及び関連する解析結果をデータベースに格納し、ウェブサイト上(http://mg.dna.affrc.go.jp/)で公開した(図1)。すべてのデータはゲノムブラウザに統合されているため、簡単な操作で情報を検索し、遺伝子構造や機能情報を閲覧することが可能である。
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[成果の活用上の留意点、波及効果、今後の展望等]
- 本研究のEST配列データを、すでに公開されているゲノムデータと比較することによって、正確に大量の遺伝子構造を決定することができた。
- 今回新たに解読したEST配列及び公開したデータベースは、イネいもち病菌の遺伝子の機能解明に利用されたり、あるいは他の菌類との比較ゲノム解析に利用できる。
- 今回作成したcDNAクローンは大部分がタンパク質全長を含むことから、今後の遺伝子機能解明に直接的に役立つ研究材料として活用されるものと期待される。
[具体的データ]
表1 タンパク質コード領域の統計情報

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図1 遺伝子情報を効率よく取得できるイネいもち病菌ESTデータベース |
[その他]
研究課題名 :超高速配列決定時代に対応した情報リソース開発
予算区分 :解析ツール
中期計画課題コード:A06
研究期間 :2008〜2012年度
研究担当者 :沼寿 隆、西村麻里江、田中 剛、松本 隆、長村吉晃、伊藤 剛
発表論文等 :Numa H, Nishimura M, Tanaka T, Kanamori H, Yang C, Matsumoto T, Nagamura Y, Itoh T (2009) Genome-wide
validation of Magnaporthe grisea gene structures based on transcription evidence. FEBS Letters 583(4):797-800.
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