遺伝子組換えカイコを用いた蛍光色を持つ高機能絹糸の開発とその利用


[要約]
遺伝子組換えカイコの作出技術を利用して、緑、赤、オレンジ色等の蛍光を持つ絹糸を始めとして、極細の繭糸、細胞接着性を高めた絹糸を作る実用系統を育成した。次いで、導入した遺伝子産物の性質を残したまま繭から生糸を繰糸する方法を開発し、ワンピース、ジャケット等の織物やインテリア用品の試作に成功した。

農業生物資源研究所・遺伝子組換えカイコ研究センター、昆虫科学研究領域・生活資材開発ユニット、
東レ、群馬県蚕糸技術センター、群馬県繊維工業試験場、理研、Amalgaam社

[連 絡 先]029-838-6091 [分   類]生物産業 [キーワード]遺伝子組換えカイコ、蛍光タンパク質、高機能絹糸


[背景・ねらい]

我が国の養蚕業を復興し、カイコを用いた新産業の創出を図るには、中国、ブラジル、インド、タイ、などで生産される低価格の絹糸と差別化し、海外では真似のできない高価格の糸を作る技術の開発が重要である。
近年、農業生物資源研究所が中心となって遺伝子組換えカイコを作る技術が確立され、カイコの遺伝子を改変することができるようになった。本研究ではこの技術を用いて組換え絹糸の作出法を確立し、繭から糸にして織物に製品化するまでの全工程の開発を試みた。

[成果の内容・特徴]
  1. 高機能絹糸を生産する遺伝子組換えカイコの作成
    遺伝子組換えカイコを作る技術を利用して、蛍光タンパク質の遺伝子や酸性アミノ酸を多く含む特殊なペプチドの配列をコードする遺伝子を導入した系統を作出した。これらの系統の絹糸を解析した結果、前者では緑や赤、オレンジ色等の蛍光を持つ絹糸が作られることが分かった。また、後者では細繊度の絹糸を作ることが分かった。
  2. 蛍光を持つ絹糸を作る系統については実験系統に改変遺伝子を導入後、品種改良を行い、F1にした場合に実用品種に近い計量形質と質を持つ日本種と中国種を育成した。また、酸性アミノ酸の多いペプチドの遺伝子については細繊度品種「はくぎん」の親系統に導入した。
  3. 緑色、赤色及びオレンジ色の蛍光タンパク質の遺伝子を導入したものと酸性アミノ酸の多いペプチド遺伝子を導入した細繊度品種について、それぞれ2万頭レベルでの大量飼育を行った。その結果、作成された組換えカイコ幼虫の性質は通常の実用品種とほとんど変わらず、大量の繭が生産された。
  4. 遺伝子組換えカイコの繭からの繰糸法の開発
    組換えカイコの繭から通常の方法で繰糸すると生糸の蛍光色が失われるため、蛍光色を残したまま、乾燥・繰糸する方法について検討した。その結果、低温で乾燥し、真空とアルカリ浸透液を用いた繭の浸漬処理、低温での繰糸、低温での酵素精錬により、蛍光色を保つ絹糸が作成できた(図1)。
  5. 試作品の作成
    得られた絹糸を用いてスーツ、ドレスなどの婦人用衣服、タピストリーなどの織物、ランプシェードなどのインテリア製品の試作が行われ、従来にない製品ができることが明らかにされた(図2)。
[成果の活用上の留意点、波及効果、今後の展望等]
特許の許諾や組換えカイコの農家等での大量飼育法を確立することにより、実用化技術として有望である。

[具体的データ]
図1 緑(上)及び赤色(下)に光る遺伝子を挿入した組換えカイコの繭と生糸
図1 緑(上)及び赤色(下)に光る遺伝子を挿入した組換えカイコの繭と生糸


図2 蛍光を持つ絹糸を用いて作られた婦人用の衣服
図2 蛍光を持つ絹糸を用いて作られた婦人用の衣服

[その他]

研究課題名    :遺伝子組換え昆虫を利用した有用物質生産技術の開発 予算区分     :交付金 中期計画課題コード:C13 研究期間     :2007〜2008年度 研究担当者    :田村俊樹、米村真之、飯塚哲也、立松謙一郎、瀬筒秀樹、小林 功 他 発表論文等    :1)瀬筒秀樹、小林さや香、飯塚哲也、立松謙一郎、内野恵郎、小林 功、米村真之、小島 桂、高林千幸、唐沢智司、
           水野秀昭、宮脇敦史、田村俊樹(2008)オレンジ蛍光タンパク質を絹糸に発現する遺伝子組換えカイコの作出.
           第78回日本蚕糸学会講演要旨:67.           2)国内特許出願「外来遺伝子発現カイコ繭の製糸方法及びそれによる製品」髙林千幸、宮﨑栄子、木下晴夫、            田村俊樹、飯塚哲也、瀬筒秀樹、立松謙一郎、町井博明 他(特願2008-269855)

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