イネ穂発芽耐性遺伝子Sdr4 の単離


[要約]
イネの穂発芽耐性遺伝子Sdr4 を単離し、Sdr4が種子の発達過程で休眠性を誘起する因子であることを明らかにした。多様なイネ品種の発芽率とSdr4 の塩基配列を比較した結果、Sdr4 は休眠性の決定に重要な役割を果たしていることが示唆された。

農業生物資源研究所・QTLゲノム育種研究センター、
          植物科学研究領域・耐環境ストレスユニット

[連 絡 先]029-838-7006 [分   類]知的貢献、技術開発 [キーワード]穂発芽耐性、種子休眠性、イネ、DNAマーカー選抜


[背景・ねらい]

穂発芽は収穫前に穂に実った状態で種子が発芽してしまう現象で、これにより穀物の品質が大きく損なわれる。現在、日本で広く栽培されているコシヒカリは比較的強い穂発芽耐性を有しているが、その他の品種の中には穂発芽耐性が十分でないものもある。さらに同じイネ科のコムギにおいて、穂発芽は深刻な問題であり、平成7年には北海道を中心に100億円以上の損害を与えたとされている。このように穂発芽耐性は農業上重要な形質であることから、その遺伝子特定と機能解析に取り組んだ。

[成果の内容・特徴]
  1. インド型品種Kasalathに由来するSdr4 は第7染色体長腕に座乗し、これをもつ日本型品種日本晴の準同質遺伝子系統NIL[Sdr4 ]は、強い穂発芽耐性を示す(図1)。
  2. マップベース・クローニング法によりSdr4 の原因遺伝子がOs07g0585700であることを明らかにし、この遺伝子を含む断片を穂発芽耐性の弱い日本晴に導入した結果、発芽を抑制することができた(図2)。
  3. インド型品種は発芽抑制効果の高いKasalath型のSdr4 と機能の低い日本晴型Sdr4 をもつ品種に分かれるが、日本稲はすべて日本晴型Sdr4 を持っていた。
  4. イネコアコレクションの発芽率とSdr4 の遺伝子型を比較したところ、Kasalath型のSdr4 を持つ品種は発芽率が低かったことから、Sdr4 が休眠性の決定に重要な役割を果たしていることが示唆された。
  5. Sdr4 は種子の登熟を制御する転写調節因子OsVP1 により正に制御され、休眠への関連が示唆される転写調節因子OsDOG1L2 の発現を正に制御していることが示された(図3)。種子休眠性を失ったsdr4 変異体種子の発芽は植物ホルモンのアブシジン酸(ABA)に対して感受性が低下しているが、LEA 等の乾燥ストレス耐性遺伝子のABA応答性は維持されているため、Sdr4 は種子休眠特異的な制御因子であることが示唆された。
[成果の活用上の留意点、波及効果、今後の展望等]
  1. コシヒカリのNIL[Sdr4 ]では穂発芽耐性が増大したことから、Sdr4 をDNAマーカー選抜によって導入することにより、穂発芽耐性の品種改良が可能である(図4)。
  2. 穂発芽耐性がさらに重要なコムギへの利用が期待されることから、Sdr4 のコムギ同祖遺伝子の解析に取り組んでいる。

[具体的データ]

図1.穂発芽耐性を示すKasalathとKasalathの持つ5つの穂発芽関連QTL

    図2.遺伝学的な候補領域と相補試験
図1.穂発芽耐性を示すKasalathと
Kasalathの持つ5つの穂発芽関連QTL
  図2.遺伝学的な候補領域と相補試験

図3.種子成熟・休眠ネットワークのモデル

    図4.コシヒカリとNIL[Sdr4]のグラフ遺伝子型と穂発芽耐性の比較
図3.種子成熟・休眠ネットワークのモデル 図4.コシヒカリとNIL[Sdr4 ]の
グラフ遺伝子型と穂発芽耐性の比較

[その他]

研究課題名    :イネの耐環境ストレス機構の解明と利用技術の開発
          多様性研究によるイネ遺伝資源の高度化と利用 予算区分     :農水受託「グリーンテクノ」、「新農業展開ゲノム」 中期計画課題コード:B11、A01 研究期間     :2005〜2010年度 研究担当者    :杉本和彦、竹内善信(作物研)、江花薫子、宮尾安藝雄、廣近洋彦、原奈穂、
          石山賀奈子(理研)、小林正智(理研)、伴佳典(名大)、服部束穂(名大)、           矢野昌裕 発表論文等    : 1) Sugimoto K, Takeuchi Y, Ebana K, Miyao A, Hirochika H, Naho Hara N,   Ishiyama K, Kobayashi M, Ban Y, Hattori T, Yano M (2010) Molecular cloning of Sdr4,   a regulator involved in seed dormancy and domestication of rice. Proc Natl Acad Sci   USA 107:5792-5797

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