知的貢献

殺虫性タンパク質に抵抗性を示す昆虫遺伝子の同定


[要約]
微生物殺虫剤(BT剤)として利用されている殺虫性タンパク質(Bt毒素)に対する抵抗性遺伝子をカイコで同定した。消化管で働くABCトランスポータータンパク質にアミノ酸1個が挿入されると、カイコはBt毒素抵抗性になることがわかった。
生物研昆虫科学研究領域昆虫微生物機能研究ユニット、
農業生物先端ゲノム研究センター昆虫ゲノム研究ユニット、
遺伝子組換え研究センター遺伝子組換えカイコ研究開発ユニット
[連絡先]029-838-6083
[キーワード]BT剤、Bt毒素、Cry1Ab、カイコ、抵抗性遺伝子、ABCトランスポーター

[背景・ねらい]
昆虫病原細菌 Bacillus thuringiensis が作る殺虫性タンパク質(Bt毒素、図1)は、昆虫に対して特に効果が高くヒトや家畜に無害なことから、殺虫剤(BT剤)や、耐虫性遺伝子組換え作物(Bt組換え作物)に広く利用されている。しかし、BT剤を連続して使用すると、他の農薬と同様、BT剤に抵抗性を示す害虫が発生し問題となる。そこで、チョウ目でゲノム解析が最も進んでいるカイコを用いて抵抗性遺伝子を究明し、抵抗性が出現したチョウ目害虫のBT剤抵抗性遺伝子の特定と解析に活用する。
[成果の内容・特徴]
  1. 生物研が保存しているカイコ系統のうち、Bt毒素の一種であるCry1Ab毒素に感受性の輪月と抵抗性の支2号とでは、感受性が300倍以上も異なっていた。両系統の交配実験及び戻し交雑により得られた抵抗性個体のゲノム解析から、抵抗性遺伝子は劣性の遺伝子で第15番染色体上にあることがわかった。
  2. カイコのゲノム情報を利用したポジショナルクローニング法により、ABCトランスポーター(ABCC2 )遺伝子が抵抗性に関わると推測された。ABCC2 遺伝子は、毒素の作用部位である消化管の細胞のみで発現していた。
  3. 抵抗性と感受性を示す複数の系統で、ABCC2 遺伝子を比較したところ、抵抗性系統では、推定されるアミノ酸配列にチロシンというアミノ酸が一つ余分に入っており、これが感受性を抵抗性に変えた原因であると考えられた(図2)。
  4. ABCC2 遺伝子の抵抗性への関与を確認するため、遺伝子組換え技術を用いて、感受性カイコのABCC2 遺伝子を抵抗性カイコに導入して働かせ、その幼虫にBt毒素を食べさせた。その結果、形質転換カイコは全て死に、抵抗性の形質が感受性に変化したことがわかった(図3)。すなわち、抵抗性の原因はABCトランスポーター(ABCC2 )遺伝子の変異であることが証明された。
[成果の活用上の留意点、波及効果、今後の展望等]
  1. Bt毒素が殺虫作用を示す上で、ABCトランスポーターがどのような働きをし、アミノ酸(チロシン)1個の挿入が抵抗性とどう関わるのかを明らかにすることで、まだ不明な点の多いCry毒素の作用の解明に寄与する。
  2. 今回証明した抵抗性遺伝子(ABCC2 遺伝子)に関しては、すでにコナガを始め一部の害虫で抵抗性への関与を示唆する報告が出ている。害虫のBt毒素抵抗性遺伝子が解明されれば、防除対象の害虫がBt毒素に抵抗性か否かを遺伝子解析により簡便にモニタリングする技術の開発に役立つと期待される。

[具体的データ]
図1 昆虫病原細菌Bacillus thuringiensis の胞子と殺虫性タンパク質(Bt毒素)の結晶体 図2 抵抗性および感受性それぞれ7系統のアミノ酸配列(N末端から223〜246番目)抵抗性系統ではチロシン(Y)が挿入されていたが感受性系統では全て欠いていた。
図1 昆虫病原細菌Bacillus thuringiensis の胞子と殺虫性タンパク質(Bt毒素)の結晶体 図2 抵抗性および感受性それぞれ7系統のアミノ酸配列(N末端から223〜246番目)
抵抗性系統ではチロシン(Y)が挿入されていたが感受性系統では全て欠いていた。


図3 ABCトランスポーター形質転換カイコの殺虫試験 (左)抵抗性系統にCry1Ab毒素を塗布したクワの葉を与えると、食べつくす。(右)抵抗性系統のカイコに感受性カイコ由来のABCトランスポーター遺伝子を導入すると感受性となり、Cry1Ab毒素を塗布したクワの葉を与えると全て死に、クワの葉が残る。
図3 ABCトランスポーター形質転換カイコの殺虫試験
(左)抵抗性系統にCry1Ab毒素を塗布したクワの葉を与えると、食べつくす。(右)抵抗性系統のカイコに感受性カイコ由来のABCトランスポーター遺伝子を導入すると感受性となり、Cry1Ab毒素を塗布したクワの葉を与えると全て死に、クワの葉が残る。
[その他]
研究課題名昆虫の病原抵抗性に係わる病原体・宿主間相互作用の解明
予算区分交付金
中期計画課題コード2-25
研究期間2005〜2012年度
研究担当者渥美省吾、宮本和久、山本公子、生川潤子、河合佐和子、瀬筒秀樹、小林功、内野恵郎、田村俊樹、三田和英、門野敬子、和田早苗、野田博明
発表論文等1) Atsumi S, Miyamoto K, Yamamoto K, Narukawa J, Kawai S, Sezutsu H, Kobayashi I, Uchino K, Tamura T, Mita K, Kadono-Okuda K, Wada S, Kanda K, Goldsmith M.R, Noda H (2012) Single amino acid mutation in an ATP-binding cassette transporter gene causes resistance to Bt toxin Cry1Ab in the silkworm, Bombyx mori Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 109(25):E1591-E1598
2) 宮本和久、野田博明、渥美省吾、山本公子、瀬筒秀樹、和田早苗「鱗翅目昆虫由来のBt毒素抵抗性遺伝子およびその利用」 特開2012-065582
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