知的貢献 知的貢献

イソマルトオリゴ糖を生産する酵素の立体構造を解明


[要約]
デンプンからイソマルトオリゴ糖を生産する4酵素の立体構造をX線結晶解析法で決定し、酵素が働くしくみを解明した。立体構造に基づき酵素を改変し、グルコース重合度が10以上の環状イソマルトメガロ糖の収量を2倍以上に増やすことに成功した。
[キーワード]
イソマルトメガロ糖、デンプン、X線結晶解析、酵素反応機構
[担当]
生物研 農業生物先端ゲノム研究センター 生体分子研究ユニット
[連絡先]
029-838-7877

[背景・ねらい]
 「イソマルトオリゴ糖」はグルコースがα-1,6結合で繋がったオリゴ糖で、虫歯になりにくくしたり、化合物を包み込み水溶性を高める性質を持つことが明らかになっている。また高い親水性および食品安全性の観点から、新しい機能を持つ糖質としての産業応用が期待される。しかし、重合度の高いイソマルトメガロ糖(およそ重合度で10以上)の物性や機能については未解明な部分が多く、効率的な生産方法を確立し機能解明を進めていくことが必要である。本研究では、酵素を用いたイソマルトメガロ糖の生産効率を向上させるため、イソマルトオリゴ糖生成に関わる酵素の構造を解析し、酵素が働くしくみを明らかにした。
[成果の内容・特徴]
  1. デンプンを原料にしてイソマルトメガロ糖を生産する4つの過程の4種類の酵素、@合成酵素:デンプンのグルコース間のα-1,4結合を分解しα-1,6結合からなるデキストラン型糖鎖に変える、A環状化酵素:デキストランから環状イソマルトメガロ糖を作る、B分解酵素:デキストランをイソマルトオリゴ糖に分解する、C転移酵素:イソマルトオリゴ糖のグルコースを転移し直鎖イソマルトメガロ糖を作る、の立体構造をX線結晶解析法により決定し、各酵素の反応機構を解明した(図1)。
  2. 放線菌Streptococcus mutans由来のデキストラン分解酵素(SmDEX)は、(β/α)8バレルの構造を持つ触媒ドメインと、そのN末端とC末端に一つずつのβドメインの計3つのドメインで構成されていた。イソマルトトリオースとの複合体の構造、および反応阻害化合物との複合体の立体構造に基づき、酵素の基質認識部位と酵素の熱安定性向上に関わる部位を同定した。
  3. 環状イソマルトオリゴ糖を生産する細菌Bacillus circulans由来の環状イソマルトオリゴ糖グルカノトランスフェラーゼ(環状化酵素、BcCITase)のコア構造はSmDEXと類似していたが、それ以外に触媒ドメインの途中のループが大きく突出し、新たなβドメイン(CBM35)を有していた。酵素活性を失った酵素変異体を作製し、基質の一つである重合度8の直鎖イソマルトオリゴ糖(IG8)との複合体の構造決定を行ったところ、IG8は触媒部位からCBM35にわたって結合していた。このことから、CBM35が環状イソマルトオリゴ糖を生産する環状化反応において、重合度の制御に重要な役割を果たしていることが明らかになった。
  4. BcCITaseのCBM35糖鎖結合部位を中心に変異を導入したところ、主生産物である重合度8の環状イソマルトオリゴ糖の生産量が減少し、重合度10以上の環状イソマルトメガロ糖の生産量が約2.6倍に増加するBcCITase変異体を作製することに成功した(図2)。
[成果の活用上の留意点、波及効果、今後の展望等]
  1. 4酵素の立体構造情報が得られ酵素反応機構が解明されたことで、酵素の機能向上のための分子改変が可能となり、イソマルトメガロ糖の大量生産、応用への道を拓いた。
  2. BcCITaseではCBM35により、生産物の重合度が選択されていた。CBM35の改変による、生産物である環状糖の重合度の制御が可能となった。

[具体的データ]
図1 遺伝子アノテーションの概要(赤い部分はオオムギ完全長cDNAによる遺伝子予測)
図1 デンプンからのイソマルトメガロ糖生産工程、および4酵素の立体構造
酵素と糖鎖の複合体の構造から各酵素の反応メカニズムを解明した。
図2 完全長cDNAによって正確に構造決定された遺伝子の例
図2 野生型 (A)、変異体 (B) 酵素の環状イソマルトオリゴ、メガロ糖の生産量
全体として約2倍に環状糖の収量が増加し、重合度10以上の環状イソマルトメガロ糖の生産量は約2.6倍となった。

 

[その他]

研究課題名酵素の立体構造解析によるイソマルトメガロ糖認識機構の解明
中期計画課題コード 1-25
研究期間2009〜2013年度
研究担当者藤本瑞、門間充、舟根和美(食総研)、木村淳夫(北海道大)
発表論文等1) Suzuki N, Kim YM, Fujimoto Z, Momma M, Okuyama M, Mori H, Funane K, Kimura A (2012) Structural elucidation of dextran degradation mechanism by Streptococcus mutans dextranase belonging to glycoside hydrolase family 66 The Journal of Biological Chemistry 287(24):19916-19926
2) Suzuki N, Fujimoto Z, Kim YM, Momma M, Kishine N, Suzuki R, Suzuki S, Kitamura S, Kobayashi M, Funane K, Kimura A (2014) Structural elucidation of the cyclization mechanism of α-1,6-glucan by Bacillus circulans T-3040 cycloisomaltooligosaccharide glucanotransferase The Journal of Biological Chemistry 289(17):12040-12051
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