技術開発

カイコの組換え体選抜技術の改良とノックイン技術の開発


[要約]
カイコの卵で強力に働くプロモーターを発見した。これをマーカー遺伝子につなげることで、組換えカイコを卵の段階で容易に選抜できるようになった。また、ゲノム編集技術を活用し、カイコゲノムの狙った場所に遺伝子を挿入する(ノックイン)技術を開発した。これらの技術を組み合わせることで、効率よくノックインカイコを選抜できる。
[キーワード]プロモーター、ゲノム編集、ノックイン、遺伝子機能解析、有用物質生産
[担当]生物研 遺伝子組換え研究センター
    遺伝子組換えカイコ研究開発ユニット、昆虫機能研究開発ユニット
    昆虫科学研究領域 昆虫成長制御研究ユニット
[連絡先]029-838-6091

[背景・ねらい]
 カイコはタンパク質生産能力が高いため、検査薬・医薬品・化粧品等に使われる有用タンパク質の生産に向いており、一部の企業で遺伝子組換えカイコを利用した有用物質生産の事業化が始まっている。しかしながら、目的の遺伝子が組込まれた組換えカイコができる確率は数百分の1であり、卵の早い時期など、カイコの発育の早い段階で目的とする組換えカイコを容易に選抜する技術の開発が望まれていた。また、組換えカイコを用いた有用物質生産においては、生産量がまだ十分ではないという課題がある。現在よりも生産量をさらに上げるためには、染色体上の狙った位置に遺伝子を挿入(ノックイン)する技術の開発が必要であったが、これまでカイコで効率よく遺伝子のノックインを行うことは困難であった。そこで、これらの問題を解決するために、組換え体選抜技術の改良および遺伝子ノックイン法の開発を行った。
[成果の内容・特徴]
  1. カイコの様々な成長段階(卵、幼虫、蛹、成虫)において全身で強く働く「hsp90(エイチエスピー90)遺伝子」を発見し、その遺伝子の発現を調節しているプロモーターを特定した。
  2. このプロモーターを利用して緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を導入したところ、カイコの様々な成長時期で、GFP遺伝子が全身で非常に強く発現することが分かった(図1)。特に卵の時期において少なくとも5日間強力な蛍光を発したことから、このプロモーターを用いてGFP等のマーカー遺伝子を発現させれば、誰でも正確に目的とするカイコの卵を選抜できることが分かった。
  3. 上記で開発した技術を活用し、新規の遺伝子ノックイン技術の開発を試みた。カイコでは相同組換えによるノックインは非常に困難であったが、最近明らかにされたDNA修復機構の一つであるMMEJ経路と、人工DNA切断酵素を利用することで、カイコの皮膚の着色に関わる遺伝子にhsp90プロモーターとGFPを高効率で挿入することに成功した(図2)。
  4. 挿入部位の周辺の塩基配列を確認したところ、遺伝子が正確に挿入されていることが明らかになり、この技術の有効性が示された。
[成果の活用上の留意点、波及効果、今後の展望等]
  1. hsp90プロモーターを利用することで、組換え体の判別が格段に容易になり、選抜作業が飛躍的に効率化する。また、これまでよりもさらに詳しく遺伝子の機能を調べることが可能になり、有用物質生産の効率化や害虫の新規制御剤の開発につながる。
  2. 開発したノックイン技術を利用することで、発現量が高い在来遺伝子の位置に外来遺伝子を挿入することが可能になり、遺伝子組換えカイコでの有用物質生産量が劇的に増えることが期待される。また、これまで不可能であった100%組換えシルクの開発が可能になると期待される。

[具体的データ]
図1 カイコの卵、幼虫、蛹(さなぎ)、成虫でのhsp90プロモーターによるGFP遺伝子の発現

図1 カイコの卵、幼虫、蛹(さなぎ)、成虫でのhsp90プロモーターによるGFP遺伝子の発現
それぞれの1対の写真で左が白色光下、右がGFP蛍光を撮影したもの。右側の写真で緑色に光っている部分でGFP遺伝子が発現している。hsp90プロモーターは各段階の全身で活性をもっていることが分かる。スケールバーは卵が0.3mm、幼虫が1mm、蛹と成虫が3mmを示す。G3:Genes, Genomes, Genetics doi:10.1534/g3.114.011643より一部改変。

図2 新規の遺伝子ノックイン技術の開発 A図2 新規の遺伝子ノックイン技術の開発 B

図2 新規の遺伝子ノックイン技術の開発
(A) 従来法と今回開発した方法でのノックイン効率の比較。今回の方法を用いることで、ノックイン効率が100倍近く上昇した。(B) 遺伝子ノックインに成功したカイコ。左の写真が白色光下、右の写真が蛍光下で撮影したもの。それぞれ上の個体が正常なカイコ、下の個体がノックインに成功したカイコを示す。ノックインに成功した個体では、皮膚の着色に関わる遺伝子の破壊により皮膚が透明になり、さらにGFP遺伝子の挿入により全身での緑色の蛍光が観察される。Nature Communications
doi:10.1038/ncomms6560より一部改変。

 

[その他]

研究課題名遺伝子組換えカイコの開発技術の高度化
中期計画課題コード3-02
研究期間2012〜2014年度
研究担当者

坪田拓也、内野恵郎、鈴木誉保、田中博光、粥川琢巳、大門高明、篠田徹郎、

中出翔太(広島大)、坂根祐人(広島大)、久米悟士(広島大)、

坂本尚昭(広島大)、小原政信(広島大)、山本卓(広島大)、

佐久間哲史(広島大)、鈴木賢一(広島大)、瀬筒秀樹

発表論文等 1)Tsubota T, Uchino K, Suzuki T.K, Tanaka H, Kayukawa T, Shinoda T, Sezutsu H (2014) Identification of a novel strong and ubiquitous promoter/enhancer in the silkworm Bombyx mori G3: Genes, Genomes, Genetics 4(7):1347-1357
2)Nakade S, Tsubota T, Sakane Y, Kume S, Sakamoto N, Obara M, Daimon T, Sezutsu H, Yamamoto T, Sakuma T, Suzuki K.T (2014) Microhomology-mediated end-joining-dependent integration of donor DNA in cells and animals using TALENs and CRISPR/Cas9 Nature Communications 5:5560
3)坪田拓也、内野恵郎、田中博光、瀬筒秀樹「外因性遺伝子発現ベクター、形質転換体判別マーカー及び形質転換体」WO2015/022971
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