平地農業地域における桑園借地による規模拡大の成立条件
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[要約]
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平地農業地域の桑園借地による養蚕経営規模を拡大するための成立
条件としては、養蚕縮小・廃止による桑園貸出し希望農家の存在、
おおむね標準小作料以内での借地料設定、土地改良事業済みで機械
化収穫が可能な密植桑園、労働力、機械・施設の充実、貸主からの
信頼獲得をあげることができる。
農業研究センター・経営管理部・養蚕経営研究室
[連絡先] 0298-38-8423
[部会名] 蚕糸・昆虫機能
[専門] 経営
[対象] 工芸作物類
[分類] 行政
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[背景・ねらい]
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需要に即応した繭を低コストで生産するためには、養蚕経営の規模
拡大が必要である。そこで、規模拡大を図る上で重要な方法である
桑園借地の成立条件を明らかにすることが求められている。ここで
は、わが国の主要な養蚕地域であるが、近年、都市化等の影響によ
り繭生産基盤の脆弱化が著しい群馬県榛東村および吉岡町(いずれ
も平地農業地域に属する)の、桑園借地によって大規模養蚕経営を
実現してきたA(桑園面積317a、うち借地165a)、B(404a、う
ち借地345a)、C(289a、うち借地180a)農家3戸を対象として
検討を行う。
[成果の内容・特徴]
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社会経済的条件として、兼業化、高齢化、後継者不足等のため養蚕
経営を縮小・廃止し桑園の貸出しを希望する農家の存在があげられ
る。貸出地のもとの利用状況は桑園が多いため
(表1)
、借主が利用しやすくなっている。
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借地料は標準小作料(年間10a当たり畑13千円)を基準にしてお
おむね13千円以内で設定されている。
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借地を成立させる土地条件は、国営畑地かんがい事業である群馬用
水事業等による土地改良済みの桑園の比率がB、C農家の場合にみ
るように53%、100%
(表2)
と大きいこと、桑の機械化収穫が可能な密植桑園(10a当たり約1,
600本)であることがあげられる。なお、事業費の負担は貸主が負
担している。
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B農家においては、借地を徐々に拡大し平成4年には上繭敗繭量3.3
t
(図1)
と県内屈指の大規模養蚕経営(農産物販売額8,183千円のうち上繭
は71%)へと成長した。借地拡大に伴い、上蔟作業時における雇用
労働力の増加、壮蚕飼育室・貯桑場、省力飼育台、条桑刈取機等の
導入を行っている。借地の拡大を図る上で、労働力、機械・施設の
充実が必要である。
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借主は借地においても自作地と同様に桑の枯条、オガクズ、鶏・豚
糞等を材料としたたい肥を年間10a当たり1.5t前後投入し、借地の
肥培管理も十分行い、貸主から「安心して貸し出しができる借主」
としての信頼を獲得している。このことも桑園借地を成立させる大
きな条件となっている。
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[成果の活用面・留意点]
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都市化等の影響により養蚕農家、桑園等繭生産基盤が脆弱化してい
る地域に有効な情報である。なお、借地桑園は自作桑園に比較して
自宅からの距離が遠い、樹齢が古い、機械化収穫面積率が低い等の
問題があるため
(表2)
、今後、桑園の自宅周辺への集積、改植が必要と考えられる。その
際、経費の負担を貸・借主いずれが行うかを貸・借主双方で明確に
しておく必要がある。
[その他]
研究課題名:大規模養蚕経営形成・展開のための農地流動化条件
予算区分 :経常
研究期間 :平成5年度(平成2~5年度)
発表論文等:1)桑園借地の成立条件と今後の課題、日本蚕糸学会関東支部第43回学
術講演会講演要旨集、1992
2)大規模養蚕経営における桑園借地の実態と問題点、農業経営通信
174、1992