生物系特定産業技術研究支援センター

《こぼれ話8》AIかん水施肥システムで農作業の省力化

2020年6月22日号

SDGs目標9 産業と技術革新の基盤をつくろうSDGs目標3 すべての人に健康と福祉を

省力化、高収量、高品質の施設園芸

生産者にとっての大きな悩みは、栽培ほ場まで足を運び、作物の生育具合や土壌の水分量、天候の影響などを確認しながら、いつ、どのタイミングでどの程度の水や肥料を与えればよいかを適切に判断することの難しさです。これまで勘と経験に頼ってきたかん水と施肥の作業にAI (人工知能) を活用することで、省力化、高収量、高品質の三拍子そろった先進的な施設園芸を実現させる事例が出てきています。

トマトやイチゴなどを栽培する生産者の中には「毎日1時間以上かかっていた水やりがほぼなくなり、品質管理や収量アップに専念できるようになった」と水やりと施肥の労働作業が9割も減ったという劇的な例も出てきています。

最新AIで最適なかん水と施肥

この新しい技術を開発したのは「株式会社ルートレック・ネットワークス」(神奈川県川崎市・佐々木伸一代表取締役社長) です。2018年、同社は第4回日本ベンチャー大賞 (経済産業省主催) で「農業ベンチャー賞 (農林水産大臣賞)」を受賞しています。

「ゼロアグリ」(写真1) は土壌センサーによって土壌の肥料成分の指標となるEC (電気伝導度) 値を計測し、そこに日射予報のデータを加え、最新AI技術によって、最適な量のかん水と施肥を実現するシステムです。

写真1 : ゼロアグリ
写真2 : 点滴チューブ

(写真はルートレック・ネットワークスのHPから)

生産者はハウス内を巡回して作物の生育具合を確認し、水やりを行う作業に相当量の時間と労力を費やします。しかし、「ゼロアグリ」を使えば、点滴チューブ (写真2) から、作物が必要とする培養液 (水と肥料) の最適な量が適切な時間に自動供給されるため、作業の省力化と節水が可能となります。この少量多かん水 (ほぼ1時間ごとに少量ずつかん水) は作物にストレスをかけないため、高い品質と収量の向上も期待されます。

スマートフォンによる遠隔操作

生産者は「ゼロアグリ」によって得られたデータをパソコンやスマートフォン (写真3) で確認できる利点があります。ほ場に行かなくても、管理画面からほ場のデータをモニタリングでき、培養液の濃度や施肥時間の設定も遠隔で操作できます。これにより、これまでかん水と施肥にかかっていた時間が節約され、作物の栽培管理や収穫に集中でき、規模拡大も可能になります。これらの技術は、農業経験の少ない若い新規就農者の農業参入を後押しする援軍にもなります。

写真3 : 管理画面

40都道府県200か所以上で導入

「ゼロアグリ」はすでに福島、熊本、広島、群馬、栃木など40都道府県、200カ所を超えるほ場で導入されています。対象となる作物はトマト、キュウリといった果菜類を中心に、最近はイチゴでの活用が増えており、実績を伸ばしています。このほか、ピーマンやナス、メロン、花きなどの栽培にも応用され、施設栽培の生産者の力強いパートナーとなっています。

導入生産者からの喜びの声

「ゼロアグリ」を導入した生産者からは、「作業時間の削減で規模拡大ができた」「作業効率が上がり、休日の管理なども任せられ、病気が出にくくなってきた」「かん水と施肥にかける時間が削減でき、収穫など他の作業に集中できるようになった」などの声が届いています。作業労働時間の大幅な削減、水と肥料の50%近い節約、3割程度の増収という事例も珍しくありません。

また、このシステムを障がい者の雇用にも結びつけ、農福連携に活用する先進的な取り組みを行う生産者も出てきています。

事業名

革新的技術開発・緊急展開事業 (うち経営体強化プロジェクト)

事業期間

平成29年度~令和元年度

課題名

パイプハウスで高収益を実現するICT利用型養液土耕制御システム汎用化とその実証

研究代表機関

株式会社ルートレック・ネットワークス (ICT養液土耕コンソーシアム)


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こぼれ話の①~⑱は日本語と英語で読めます。その18話を冊子『日本の「農と食」 最前線-英語で読む「研究成果こぼれ話」』にまとめましたのでご覧ください。