生物系特定産業技術研究支援センター

SIP

プログラムディレクター (PD)

野口 伸
(北海道大学 大学院農学研究院 教授)

PDのメッセージ

戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「次世代農林水産業創造技術」(以下、「SIP農業」)では、「チャレンジする農林水産業経営者」がICT・ロボット等の先端技術や我が国が強みを持つ研究領域の成果を活用し、現在よりも一段と高い栽培管理技術や販売力、収益性を有する新たな経営体となることにより、我が国の農林水産業の国際競争力強化や地域経済の活性化に貢献するとともに、農林水産業を若者にとって魅力的な産業とすることを、最大の目標としています。この目標を達成するために、SIP農業では、府省を超えた枠組みを構築し、オールジャパン体制で次の2つの課題に重点的に取り組んでいきます。

  • ICTやビッグデータ解析技術、ロボット技術等を活用して、省力的で、かつ、高い生産性や品質管理を実現する「スマート農業」
  • 我が国が強みを持つ健康機能性研究や未利用資源活用技術を活用した「農林水産物の高付加価値化」

「スマート農業」では、水田農業及び施設園芸(植物工場)で先導的にスマート化を実現し、その後他の作物へ拡大していくことを基本戦略としています。
水田農業については、30ha規模の家族経営や100ha規模の法人経営が、超省力・高生産で環境変化に強い新たな水田農業を実現することを目標とします。このため、センシング等から得られる作物の生育情報等の利用技術、気象情報から病害虫防除や収穫の適期等を予測する技術、水管理の自動化技術、農業機械の自動化・知能化技術、地理空間情報を利用した営農管理技術を統合し、将来製品化を担う企業の協力の下、技術導入が想定される規模の経営体の現地圃場において実証試験を実施します。また、水管理データ、生育データや気象データを蓄積、ビッグデータ解析し、AIを活用して毎年栽培管理が高度化するシステムを構築します。さらに、この目標を達成するためには国産ゲノム編集技術の開発及びそれによる良食味・多収品種の開発なども行います。
施設園芸については、1ha程度の家族経営や4ha程度の法人経営を育成することを念頭に、食味等の強みを持ちながら海外と勝負できる生産性を有する日本型高度施設園芸の実現を目標とします。このため、品質と収量をコントロールできるトマトの栽培管理ソフトウェアをオミクス解析に基づき短期間に開発し、環境制御装置に組み込んで提供します。また、化学農薬に依存しない病害虫防除技術や、既存事業で開発されている輸送時の品質保持技術やエネルギー・二酸化炭素利用技術等を活用して施設園芸システムを構築し、海外産と品質面、価格面で差別化できるトマト生産の実現を目指します。

「農林水産物の高付加価値化」では、健康機能性による海外農産物との差別化や、新素材開発による新たな地域産業の創出を基本戦略としています。
健康機能性による海外農産物との差別化については、脳機能活性化や身体ロコモーション機能改善など、健康長寿社会の実現に貢献する機能性に着目し、これらの成分について科学的エビデンスを獲得して食品会社等に提供します。また、健康機能性に関して得られた知見を品種の開発や植物工場における栽培管理にフィードバックし、課題間連携を促進しながら、我が国の農林水産物の付加価値を高めることにより国際競争力の飛躍的な向上を図ります。
新素材開発による新たな地域産業の創出については、林地残材から低コストかつ安全性の高い方法で改質リグニンを製造する世界初のベンチプラントが既に完成しており、改質リグニンを原料にエレクトロニクス素材や耐熱ガスケット材等の高機能製品を開発することにより、新たな地域産業の創出を目指します。

SIP農業の研究開発に当たっては、ガバニングボードをはじめ、関係する行政機関、企業、生産者等のご指導、ご協力を得ながら、SIP農業の目標を達成し、我が国の農林水産業の発展に貢献するとともに、農林水産業におけるSociety5.0の実現に寄与できるよう全力で取り組んでまいります。

SIP「次世代農林水産業創造技術」
PD(プログラムディレクター)
野口 伸