生物系特定産業技術研究支援センター

SIP

第2期 スマートバイオ産業・農業基盤技術

国際シンポジウム「戦略的イノベーション創造プログラム「スマートバイオ産業・農業基盤技術」食がつなぐ、持続可能な成長社会。「スマートフードシステム」構築を目指して」開催報告
Jananese | English

SIP「スマートバイオ産業・農業基盤技術」プログラムでは、バイオとデジタルの融合や、生産、流通、消費までを含めたビッグデータの利活用を可能とする「スマートフードシステム」の構築により、「食」のサスティナビリティを実現する取組を行っています。本シンポジウムでは、スマートフードシステムの6つのセグメントのうち「資源循環」に係る成果が紹介されました。

開催報告

開催日時 : 2020年10月14日 (水曜日) 15時00分~17時00分
会場 : パシフィコ横浜 F201-202 (横浜市西区みなとみらい一丁目1番1号)

発表の概要

イントロダクション
水無 渉(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 技術戦略研究センター バイオエコノミーユニット長/SIP スマートバイオ産業・農業基盤技術 サブプログラムディレクター)

SIP スマートバイオ産業・農業基盤技術の資源循環グループでは、「食」のサスティナビリティの中でも「食」関連資源・環境のサスティナビリティ実現のために「非可食部分、残渣の資源化・素材化」「食ベースのバイオ素材の高機能・高付加価値化」「バイオ関連産業の環境負荷低減」につながる、技術開発に取り組んでいます。スマートフードシステム全体の中では静脈系にあたる部分であり、一次産品や高機能食材が利用された後の廃棄物を処理・浄化するだけでなく有価物を取り出すことでシステム全体を円環としてつなぐ役割を果たします。

アグリバイオ・スマート化学生産システムの開発
林 潤一郎(九州大学 先導物質化学研究所 教授)

籾殻、稲わらや他の農業残渣、オギススキバイオ資源などの全構成成分を並列処理プロセスにより分離回収し、製品化する技術を開発しています。処理も熱水や弱い酸・アルカリによる化学反応、酵素など、低エネルギーで行っています。現在、15のプロセスから20以上の製品を生産することに成功しています。並列プロセスで製造することで、原料に対する付加価値が10倍以上に向上し、ナノファイバーやC6糖などの原価を引き下げることができます。これにより従来は高価だったC5糖・C6糖、セルロースナノファイバー等の安価な供給が可能になります。
▶講演資料はこちら

革新的バイオ素材・高機能品等の機能設計技術及び生産技術開発
中嶋 隆人(理化学研究所 チームリーダー)
大西康人(東京大学教授)

農業残渣などから得られる安価な糖を原料に用いて、微生物による高機能マテリアルへの変換で石油化学製品を地球環境にやさしいバイオ由来に置き換えます。現在使用できるバイオポリマーは主に脂肪族ポリマーですが、データ駆動型モノマー生産技術とバイオポリマー設計技術により芳香族のバイオポリマーを生産し、高機能性を付加したバイオ由来の材料開発を実現します。これまでに、耐熱温度745°Cのバイオプラスチックの生産プロセスの開発に成功しており、航空・宇宙機器など高い耐熱性能が求められる分野の部品への応用が有望視されています。
▶中嶋氏 講演資料はこちら
▶大西氏 講演資料はこちら

カイコによるサステナブルな有用タンパク質・新高機能素材の生産システムの開発
瀬筒 秀樹(農研機構 生物機能利用研究部門 ユニット長)

体内で絹糸を合成するカイコに低環境負荷なタンパク質生産の可能性を見出し、「昆虫生産型ものづくり」に取り組みます。遺伝子組み換えカイコによる生産では、IPS細胞の基材となる素材を従来の手法の半分のコストで生産することに成功しました。また、従来は大腸菌や哺乳類培養細胞を用いる必要があり大量生産が困難だった骨粗鬆症の診断試薬や糖尿病合併症・加齢性疾患を引き起こす刺激性AGEの検出キットの開発に成功し、2021年には受注生産販売が開始される見込みです。カイコにウィルスを注入する「カイコーバキュロウィルス生産系」では、ウィルス接種後1週間以内にタンパク質の生産が可能になり、動物用インターフェロンや新型コロナウィルス抗体検出キットの試薬開発に成功しました。カイコによる生産は温室効果ガス排出量削減の点でも優れており、ESG投資を呼び込むものとして期待されています。
▶講演資料はこちら

スマートバイオ社会を実現するバイオプロセス最適化技術の開発
田村 具博(産業技術総合研究所 生命工学領域 領域長)

廃水処理や汚泥処理などの静脈系を効率化する技術開発への取り組みです。廃棄食糧はバイオガス生産に利用されますが、その際に産業廃水が排出されます。産業廃水は一般的な下水処理に比べると約6倍のコストがかかっており、バイオガス価格を引き下げるためには廃水の処理効率を高めることが大きな課題です。こうした課題に、ビッグデータの活用により取り組んでいます。廃水処理槽の微生物の菌叢を調査し、分類することで、処理効率に影響を与える微生物が特定されつつありま、廃水処理効率のシミュレーション実現が期待されます。また、廃水処理に使用するメンブレン膜の閉塞を予測するモデルは、廃水処理施設のメンテナンスに応用できます。
直接的な物質循環の環境影響評価にも取り組んでいます。もみがらを原料とするセルロースファイバーから生産するECORボードを家具に組み込んだ時の環境的評価では、板材を使用するよりもエネルギー消費量やCO2排出量が少ないことを明らかにしました。
▶講演資料はこちら

講評
小林憲明(SIPスマートバイオ産業・農業基盤技術 プログラムディレクター)

SIPスマートバイオ産業・農業基盤技術は5年間のちょうど折り返し点であり、「スマートフードシステム」実装への道筋が見えていなくてはいけない状況です。本シンポジウムで紹介した「資源循環」の取り組みは、直線型サプライチェーンの末端で「Reduce Reuse Recycle」を実装するのではなく、廃棄物が次のものづくりの材料やエネルギーとして利用される、スマートフードシステムが目指すサーキュラーエコノミー実現に大きな役割を果たします。まだまだ実験室から出てきたばかりの技術であり、市場化への壁や谷を超えるには皆様の協力が必要です。これらの技術が市場に出ることで、本当の意味での循環社会を作るきっかけとなり、スマートフードシステムがスタンダードな概念として定着することを願っています。