開発レポート

「『高接ぎ木法によるトマト青枯病防除技術』に係る産学官連携と普及活動」

中保 一浩 (農研機構 中央農業総合研究センター 主任研究員)

1.研究の背景および研究成果の概要

(1)開発技術の背景

■台木の抵抗性を十分に活用した「高接ぎ木法による青枯病防除技術」を開発

トマト栽培の産地化に伴う連作により、土壌伝染性の難防除病害である青枯病が発生し大きな問題となっています。本病は高温時に多発することから、近年の温暖化による被害の拡大も懸念されています。本病の防除法として、抵抗性台木品種を用いた接ぎ木栽培が広く普及しています。しかし、従来の慣行接ぎ木を用いても青枯病の被害を回避できないことが多く、より防除効果の高い技術の開発が求められていました。

(2)開発技術の概要

高接ぎ木法は、慣行接ぎ木(接ぎ木部位:子葉上)より高い位置(同:第2、3葉上)に穂木を接いだ苗を利用することで青枯病を防除する技術です(図1)。高接ぎ木栽培を行うことで、台木品種の持つ“植物体内で青枯病菌の移行と増殖を抑制する能力”を最大限に活用し、青枯病菌による穂木の感染、発病が抑制されます(図2)。

高接ぎ木法は、夏秋、促成および抑制等のすべての作型で慣行接ぎ木よりも高い青枯病防除効果が認められています(図3)。

一方、青枯病菌の密度が高い高度汚染圃場では、高接ぎ木法に深層まで消毒できる廃糖蜜(サトウキビなどの搾汁から砂糖を精製した後に残った粘状で黒褐色の液体)を利用した土壌還元消毒を組み合わせることで、高い防除効果を持続できます。このことは、米ぬかを用いた土壌深耕還元消毒と高接ぎ木法を組み合わせた場合でも同様の効果が期待できます。また、高接ぎ木栽培による生育、収量及び収穫したトマトの品質等は、作型や栽培地域にかかわらず慣行接ぎ木を用いた場合と同等であり、栽培管理上の問題点はありません。すでに、民間企業(ベルグアース株式会社)において高接ぎ木苗の生産販売がなされており、全国で高接ぎ木苗を購入することが可能です。

(3)開発技術の普及状況

■23道県で導入、苗の生産も順調に増加

高接ぎ木栽培はこれまでに少なくとも23 都道県の生産者ほ場で導入されています。また、商品化された「高接ぎ木苗」(商品名:高接ぎハイレッグ苗)(図1)は、平成24(2012)年度に5万本以上生産され全国へ出荷されました。平成25(2013)年度は、日本一のトマト生産地の熊本県だけで4万本近くが導入されています(全体で約8万本出荷)。
さらに、高接ぎ木法は平成26(2014)年度には普及技術として7 道県の病害虫雑草防除指針(基準)等に記載されています(7 道県の夏秋、冬春トマトの作付面積は合計で3000ha に達します)。

2.産学官連携活動について

(1)出口を見据えた研究テーマの設定

■普及を念頭に苗生産企業の参画を図る

トマトの生産現場では、慣行接ぎ木栽培で青枯病被害が頻発しており、それに対応した技術の開発ニーズを把握したことから、高接ぎ木栽培による青枯病総合防除技術を全国のトマト生産者(地域)に普及させるべく研究を開始しました。
また、近年トマト栽培においては購入苗の使用が主体となっていることから、苗生産企業による高接ぎ木苗の生産供給システムの開発が技術の普及には必要であると考えました。
以上のことを踏まえ、事前にフィージビリティスタディ(FS:実行可能性調査)を行いました。「高接ぎ木」技術を生産現場に普及させていくためには、青枯病防除の防除効果の実証、土壌還元消毒と組み合わせた総合防除技術の開発及び、高接ぎ木苗の生産供給システムの構築が必須であるという結論に至りました。

(2)具体的な協力・連携開始までの経緯について

■関係のなかった企業にも生産現場のニーズを把握し必要性を説明

技術の普及には、大規模な実証試験により効果が確認されていることが重要となります。このため、高接ぎ木法及び廃糖蜜による土壌還元消毒、米ぬかによる土壌深耕還元消毒等の予防的措置についての技術蓄積のある公立機関と連携しました。これらの公立機関を共同研究機関に選定するに当たり、トマト青枯病の防除や土壌還元消毒技術について研究蓄積のある担当者に直接プロジェクトへの参画を要請しました。
全国的な技術の普及に関しては、接ぎ木苗生産企業の参画が極めて重要となりますが、苗生産企業は地域に密着した小規模なものがほとんどを占めています。また、中央農業総合研究センターや上記共同研究機関の担当者は、苗生産企業に接点がなかったことから、全国展開し技術力があり、かつ農林水産省等の公的資金を利用した研究実績のある苗生産企業を候補として選定しました。その後、選定した企業の本社事業所に出向いて開発責任者へプロジェクトの詳細を直接説明し参画を要請しました。
「高接ぎ木苗」は子葉の上で接ぐ「慣行接ぎ木苗」に比べ生産コストがかかることから、当初はプロジェクト参画を断られる可能性が高いと考えていました。しかし、苗生産企業としても慣行接ぎ木苗でも防除しきれない場合に生産者へ提案する青枯病に強い新しい商品の開発を必要としており、参画の了解を得ることができました。

(3)連携開始後の課題及び普及のための取組について

■普及センター、JAと連携して技術の定着を図る

事業では高接ぎ木苗の実用化、現地での高接ぎ木栽培の普及を最優先の目標とし、その目標に向け参画機関間の連携をはかりプロジェクトを推進しました。高接ぎ木苗の生産供給システムの確立のため、苗生産企業で作製した苗を用いて各地で実証試験を行うとともに、トマト生産者や試験担当者(病害、栽培)からの接ぎ木苗の品質評価を行い、この評価結果を苗生産企業の生産担当者にフィードバックして「高接ぎ木苗」の商品化を目指しました。また、現地で接ぎ木と組み合わせることが可能な土壌還元消毒等を主体に総合防除技術の開発を進め、地域に適応した導入マニュアルの作成を行いました。
このようにして商品化された高接ぎ木苗は、苗生産企業の営業を通じて全国的な普及が行われています。また、普及マニュアルは「高接ぎ木法によるトマト青枯病総合防除」として公表しました。このほか、研究担当者による普及成果情報の公表や研究会、新聞、商業誌、普及誌等での発表等を積極的に行いました。さらに公立研究機関、普及センターおよびJAと共同で生産者圃場に高接ぎ木栽培を導入し、防除効果及び栽培特性の評価を実施しました。これに加え、口コミでの広がりを受けて県の病害虫雑草防除指針(基準)を通じた地域への普及活動を行いました。特に農業団体等の発表会では高接ぎ木技術の発病抑制メカニズム、実証事例、栽培特性や組み合わせる土壌消毒技術等を紹介するとともに本技術の優位性や限界を説明し、総合防除体系(IPM)の中での利用を強調するようにしました。

3.今後の研究・普及の方向性について

■研究成果をナス科野菜の総合防除技術に発展

作物の抵抗性を利用した「接ぎ木」は環境保全型の病害防除技術であり、農薬などと異なり栽培特性等に問題なければすぐに生産現場に導入、普及できる技術です。「高接ぎ木」のプロジェクトを進める中で、トマト、ナス、ピーマンのナス科野菜の生産現場では、青枯病に加え他の土壌病害の被害が大きな問題となっており、それに対応した防除技術の開発の必要性を感じました。このため、平成25(2013)年度から台木品種の土壌病害抵抗性を最大限に活用した「新しい接ぎ木法」による複合病害防除技術の開発を行っています。

4.技術、市場、社会への貢献

トマトは年間生産額が約2,000億円で、米に次いで第2位の生産額を誇る重要作物であり、リコピン等の機能性成分を含む食品としても注目を集めています。このトマトの安定生産にとり、青枯病は最も大きい阻害要因となっています。高接ぎ木法による青枯病総合防除技術は、持続的かつ環境保全型の防除技術としてトマトの安定生産や安心・安全な生産物の供給に大きく貢献するものです。また本法は、高接ぎ木苗を圃場に移植するだけで青枯病防除効果が得られる技術であり、生産者の高齢化が進む中で民間企業による「苗の生産供給」とともに省力化、軽作業化に大きく寄与すると考えています。

【平成26年7月28日掲載】】