ダイバーシティ推進 Diversity and Inclusion

元気な農と食を支える、女性研究者たち

研究も子育ても、「~じゃなきゃダメ」と思わない

rolemodel15-1湯本弘子さん

花き研究所
花き品質解析研究チーム
主任研究員

今の仕事(研究)について教えてください

切り花の寿命を延ばすための研究をしています。

生産農家で収穫され、消費者の手に渡り、見る人に楽しんでいただく間の過程で、切り花にどのような処理を施せば、より長く新鮮な状態に保つことが できるかを、様々な種類の花について調べています。同時に、花がしおれる原因や過程についても、生理的な側面から研究を進めています。

農研機構(研究という仕事)を選んだ理由は

疑問に思ったことについて、それが何故かを考え、どうすれば明らかにできるかを自分で組み立てて実行する、といった研究活動そのものが面白かった からですね。そして、興味を追求するだけでなく、役に立つということを意識しながら研究したい、という考えから現在の職場を選びました。

学生時代と今の仕事(研究)とは、どのような繋がりがありますか

大学時代は蔬菜(そさい)花卉(かき)園芸学の研究室で、キクを対象に、栄養生長から生殖生長に移行する生理機構について調べていました。花き研究所に採用されてから、研究対象はトルコギキョウに変わりましたが、いずれも花を生理的側面から研究する点で一致しています。

仕事の面白さややりがいについて教えてください

私の仕事は、収穫後の処理に対して、切り花がどういった反応を示すか、という研究ですので、植物と処理とのやり取りをいかにすくい上げるかが大切 です。処理を施す前に想像していた結果とは、異なるデータが得られることもあります。それは実験の失敗ではなく、新たな疑問のもと、次の研究への糧となり ます。植物はまだまだ私たちの知らない生理機構を持っているのだ、仮説と違ったということは、その一端をかいま見たということなのだ、と考えるのです。そ こが面白いなと思います。

こうした結果を積み上げていって、3年くらいで、ある切り花についてこういう処理剤が効果があるな、という見通しがついてきます。そしてさらに、 環境要因との関連を掘り下げたり、品種間の違いを調べたりして、成果として発信できるようになるまでには、課題となる切り花の種類を設定してから5年くら いの時間は掛かります。トルコギキョウに関しては、採用時から約10年手がけてきました。収穫後すぐに処理する「前処理」について、これ以上はないと思え る処理方法を5年掛けて見つけ、昨年論文にまとめました。この前処理法を発見した時は「来たっ!」という感じでしたね。

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トルコギキョウ切り花における前処理剤の品質保持効果。
左の写真が無処理、右が前処理を施した花。処理後7日目、無処理では花の萎れが目立ちますが、処理をした方は花の萎れが抑えられています。

今後の仕事(研究)における夢は何ですか

社会に広く普及するような技術を生み出したいと思います。例えば、電照ギクで行われている暗期中断(夜間に電気を短時間付けることにより花芽分化 を抑制する)や、トルコギキョウで行われている種子冷蔵(吸水種子を低温処理する技術)のように、物理的な制御によって、植物の生育等を調節する技術はす ばらしいと思います。切り花の品質保持では、現在は薬剤による技術開発が主ですが、今後、物理的な制御によって品質を長く維持できる技術を開発していきた いと思っています。

女子学生・ポストドクターへのメッセージをお願いします

農研機構は、女性だからと差別されるような職場ではありません。出産して働き続けている女性研究職員が周囲にいましたので、出産後も仕事を続けて いける安心感はありました。私自身、現在は初めての出産を経て、育児休業から職場に戻って間もないのですが、裁量労働制度を利用して時間をうまく使うこと ができています。

産前休暇から育児休業終了までの8ヶ月間、大学時代からずっと続けていた研究から完全に離れ、育児のことだけを考えて暮らしていたのですが、とて も貴重な体験だったと思っています。復帰当初は、頭が仕事モードに戻るのに意外と時間が掛かり、実は結構大変でした。その代わりというわけではないです が、妊娠中は産休という期限が決まっていたこともあり、我ながらすごい集中力で論文を書き上げました。長い人生ですから、そんなに気張らなくても、ある程 度メリハリがあってもいいかな、と思います。

仕事と家庭(生活)とのバランスについて、ご自身の考えや工夫されていること

育児休業を取るに当たっては、最低限の試験について段取りをし、周囲の方々にサンプリングや播種などの作業をお願いしました。心がけたことは、あ れもこれもと欲張らないこと、きちんと伝わるようお願いする事項を文書で渡すこと、休業中の連絡先が分かるようにしておくこと、そして、きちんとお礼をす ることですね。

休む前は休業期間を3ヶ月にするか、半年にするかで悩みました。早く仕事に復帰したい、子どもの成長を見届けたい、両方の気持ちの間で揺れまし た。ですが、実際に生後半年で保育所に預け始めてみると、育児100%でない今の方が子どもと向き合えていると思います。そう思えるのも、どっぷり育児に つかって、子どもの成長を存分に楽しむ時間が持てたおかげでしょうか。

保育所の送り迎えは私の担当ですが、もともとサッと仕事を切り上げて帰宅する方でしたので、復帰してからも、さほど時間の制約とか、ギャップを感 じることはありません。ただ、分析実験や切り花の調整などが始まると、途中で作業を中断するのが難しいことがあります。ですから、夫とはスケジュールを共 有して、子どもに何かあった際に双方とも動けない、という事態にはならないよう調整しています。

研究も、育児も努力は必要です。でも、「~じゃなきゃダメ」と思わないことが、次につながる、息長く続けられるコツかもしれません。

(取材日:平成22年11月)