ダイバーシティ推進 Diversity and Inclusion

元気な農と食を支える、女性研究者たち

予防および治療につながる研究成果で、家畜衛生の考え方を変えていきたい

rolemodel14-1内田裕子さん

動物衛生研究所
人獣感染症研究チーム
主任研究員

今の仕事(研究)について教えてください

動物のインフルエンザウイルスの中で、特に鳥インフルエンザウイルス自体の病原因子に関する研究を行っています。予防・治療に関連する基礎的な研究を進め、鳥インフルエンザウイルス感染による被害をなくすことを目指しています。インフルエンザウイルスはヒトと動物が共に感染するので、私達の研究は動物衛生の分野はもちろんのこと、公衆衛生にも関わっています。

また、動物のインフルエンザの病性鑑定という仕事も行っています。診断が必要とされた日本全国のインフルエンザウイルスの確定診断を行い、その結果をもとに行政対応がなされます。2009年の5月から新型インフルエンザ(パンデミック(H1N1)2009)が世界中で流行しました。このウイルスは豚インフルエンザウイルス由来でした。私達は鳥インフルエンザの診断はもちろんのこと、豚のインフルエンザについても病性鑑定を行ってきました。今後、動物のインフルエンザに関する研究はさらに必要となると考えています。

農研機構(研究という仕事)を選んだ理由は

私は獣医師ですが、獣医師という職種は基礎研究、臨床から公衆衛生まで動物に関連するあらゆる分野に及んでいます。私はその中で動物の感染症に関する研究について興味を持ち、大学院に進み研究というものがどういうものなのかを学んできました。研究によって得られた新しい事実をアウトプットすることで畜産に貢献できればいいなと思い、研究という仕事を選びました。

また、私の勤める動物衛生研究所は国内唯一の動物衛生に関わる研究所であり、より専門的な研究ができる環境があったことが農研機構を選んだ理由です。

学生時代と今の仕事(研究)とは、どのような繋がりがありますか

今の研究はウイルス学という分野ですが、学生時代は寄生虫学分野を専門に勉強していました。研究対象は異なりますが、動物の感染症を扱う点では共通しており、学生時代に学んだことが今の仕事でも生かされていると思います。

仕事の面白さややりがいについて教えてください

高病原性鳥インフルエンザは、アジアからアフリカ、ヨーロッパにわたって発生が広がっているため、海外との研究交流が欠かせません。私達の研究グループはタイに研究拠点を持っており、以前は私もタイに常駐していました。そこでは実験室の立ち上げを行い、そこでの実験結果を論文にしました。タイでの生活から実験室の立ち上げ、論文を仕上げるまでを、周りの方に支えられ、やり遂げることができたのは、かなりうれしい経験でした。

また、2008年に我が国で家禽での発生なく野鳥で初めて高病原性鳥インフルエンザの発生が確認されました。これらの診断を私達の研究所で行い、その結果を論文にしたことが我が国の行政対応を変えました。これも印象に残っている仕事です。

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高病原性鳥インフルエンザの実験に際しては、病原体が外に漏れ出ないように封じ込め施設内で行っています。また、ヒトへの感染を防ぐために防護服、マスク、メガネ、手袋を着用して病原体を扱います。

今後の仕事(研究)における夢は何ですか

動物の病気、特に家畜の病気は、集団での管理が行われているため、一度発生が起こると周りの健康な家畜に感染しないよう一群全部を殺処分しなければなりません。そのために予防という方法は重視されていますが、治療はその費用に見合わなければ施されることはほとんどありません。

現在世界中で家畜産業が拡大していますが、その一方で、病気の発生があったからといって全てを殺処分することで解決するのかという疑問が残ります。今年4月から宮崎県で発生した口蹄疫で、多くの家畜が殺処分されることに疑問を抱いた方も多かったと思います。実際獣医師として家畜の殺処分に関わった方々も、獣医師でありながら殺処分をせざるを得なかった状況に葛藤を感じておりました。自分の研究で予防及び治療につながる成果を積み上げることで、家畜衛生というもの自体の考え方を少しでも変えていけたらいいと考えています。

女子学生・ポストドクターへのメッセージをお願いします

私が学生の時、獣医学科は半分くらいが女性でした。大学によっては半分を超えるところもあるようです。大学での女性の占める割合が多いということは、この分野で社会に進出していく女性も今後もっと増えていくということでしょう。まずは女性であるからという理屈を抜きにして、こういう仕事がやりたいという思いを持って挑戦してみてもいいのではないでしょうか。

仕事と家庭(生活)とのバランスについて、ご自身の考えや工夫されていること

現在私には子どもはいません。子どもがいるのといないのとではまた状況は変わると思いますが、今は使えるだけの時間を仕事に費やすことができています。帰宅時間が私の方が遅いということもあり(私自身あまり家事が得意ではないという理由もありますが...)、主人が家事のほとんどをやっています。まだ女性が家事・育児・親の介護等しなければならないという考えが残っているのかもしれませんし、現実的にそうなのかもしれません。しかし、私のような家庭があるということも知っておいて欲しいと思います。

(取材日:平成22年8月)