ダイバーシティ推進 Diversity and Inclusion

元気な農と食を支える、女性研究者たち

「どうしてだろう?」を納得いくまで追究したい

rolemodel13-1蝶野真喜子さん

作物研究所
麦類遺伝子技術研究チーム
主任研究員

今の仕事(研究)について教えてください

日本では、小麦の収穫期が梅雨入り時期と重なること、また、梅雨のないとされる北海道でも小麦の収穫期に あたる8月に雨が多いことから、穂発芽(穂の上での種子発芽)がしばしば起こります。小麦の穂発芽は、収量を減少させるだけでなく、種子のでんぷんが崩壊することにより小麦粉製品の品質を著しく劣化させるため、最も厄介な障害とされています。そこで、穂発芽しにくい小麦を作ることを目標に、種子休眠に深く関わる植物ホルモンのアブシジン酸(ABA)に着目し、種子の休眠・発芽制御機構に関する研究をしています。

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穂発芽した小麦と発芽抑制モデル

農研機構(研究という仕事)を選んだ理由は

農研機構の研究員となった今でも、自分から選んで研究を仕事にしたという意識はありません。ただ、昔から、「どうしてだろう?」と疑問を持ったことは、納得いくまで追究する性格だったように思います。

また、田んぼのあぜ道が通学路で、休日には祖父と畑で野菜を作る幼少時代を過ごしました。小さい頃からの植物への興味が、大学の専門課程で植物ホルモンに出会った時に刺激され、植物の生長を制御する植物ホルモンを使って「どうしてだろう?」を繰り返した結果、研究員になっていました。

大学院を修了後、日本の大学でポスドクを2年、スウェーデンの大学でポスドクを1年半経験しました。スウェーデン滞在中、農研機構の任期付研究員の公募があり、幸運にも採用していただき、その後パーマネント研究員になって、今に至ります。

学生時代と今の仕事(研究)とは、どのような繋がりがありますか

日本の大学ではキュウリの伸長生長に関する研究を、スウェーデンの大学ではポプラの休眠芽(冬を越すために作られる芽)の形成に関わる研究を行いました。現在は、種子の休眠・発芽に関する研究を行っていますが、植物ホルモンによる生長制御に関する研究という意味では深くつながっています。ただ、大学での研究は基礎研究の色が濃いものでしたが、現在は農業現場に返せるような研究を意識して行っているので、そこが意外と大きな違いを生んでいると思います。

仕事の面白さややりがいについて教えてください

研究を始めたきっかけにもなりますが、「どうしてだろう?」という疑問に、自分なりの仮説を考えて、その仮説を矛盾なく説明できる実験結果を得た時は、本当に心から「楽しいなぁ!」と思います。また、その実験結果を単なる研究成果で終わらせず、農業現場の悩みへの解決につなげられれば、その時にやりがいを感じるのだろうと思います。まだ道半ばですので、基礎研究の成果を実用化につなげられるよう日々努力中です。

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「収穫作業風景」6月の蒸し暑い中、長袖・長ズボン・帽子・手袋・マスクをして網の中に入り、手分けして袋かけした穂をつみ取っています(左)。作業は大変ですが、みんなと一緒なので楽しいです。作業後もみんな笑顔です(右)。

今後の仕事(研究)における夢は何ですか

作物を使った研究では、温室で栽培した場合は良い結果が得られても、圃場で栽培した場合は異なる結果になることもままあります。現在は、穂発芽耐 性が向上した小麦を作るために、半分は基礎研究を、半分は圃場試験をしています。この基礎研究の成果を、圃場で栽培する小麦の穂発芽耐性の向上につなげることが当面の夢でしょうか。

女子学生・ポストドクターへのメッセージをお願いします

就職氷河期といわれる昨今、学生の皆さんも、ポスドクの皆さんも、良い研究成果を上げて良い論文を出し、良い就職を目指されていることと思いま す。どうしても安定した就職が先となり、結婚や出産はその後でとなるかもしれません。ただ、結婚は相手さえいればいつでもできますが、子供はいつでも欲しいときにできるものではありません。

その時々に応じて、しなやかに生活を変えなくてはならない女性研究者にとって、女性研究者の支援制度が充実している農研機構は、とても恵まれた職場だと思います。もし就職を考えていらっしゃる方がいたら、ぜひ挑戦して欲しいと思います。

仕事と家庭(生活)とのバランスについて、ご自身の考えや工夫されていること

今は、子供の保育所への送迎を担当しているので、朝夕は時間の制約が大きいです。でも、子供が生まれるまでは、好きなだけ自分の時間を研究に費や してきました。今は家庭重視と考えて、時間に束縛された生活を楽しんでいます。勿論、開催場所が遠い学会には参加したくても行けなかったり、重要な研究材 料の採取時期に子供の看病で休みが続いたりと、なかなか思うように研究ができないこともしばしばです。それでも、家に帰り、子供の笑顔を見ると、もう少し研究はのんびり構えてと思います。

夫とは、お互いの職場が遠く離れていたので、別居で結婚生活をスタートさせました。今は、子供ができ、夫が転居・転職してくれて、家族一緒の生活となりました。家事・育児全般を完璧にこなせる夫を見習いつつ、炊事洗濯をしながらの育児もなんとかさまになってきたと自負しています。次は、研究も同時にこなせるようになればいいのですが、どうでしょう。

家族や研究所の皆さんの協力に感謝しながら、お任せできるところはお任せしつつ、笑顔で「どうしてだろう?」を追究していきたいと思っています。

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「苗立ち調査に同行する影は?」苗立ち調査(年末)や袋かけ(ゴールデンウィーク中)には子供も同行。麦踏みをしたり、テントウムシを見つけたりしていました。

(取材日:平成22年6月)