ダイバーシティ推進 Diversity and Inclusion

元気な農と食を支える、女性研究者たち

育児も介護も孤軍奮闘では難しい。研究生活との両立はGive&Takeの心で末永く。

rolemodel06-1水町功子さん(前列中央)
畜産草地研究所 畜産物機能研究チーム
チーム長

今の仕事(研究)について教えてください

乳、卵、肉などの畜産物に含まれる成分の生体調節機能の解明とその機能を有効活用するための研究です。簡単に言うと、健康に良い食品を提供していくための研究ということですね。中でも、どうすれば畜産物アレルギーを引き起こしにくくできるかが、継続して扱ってきた私の主要テーマです。現在は、畜産 物中のタンパク質や乳酸菌の免疫系に及ぼす影響を明らかにして、食べることによってアレルギーや生活習慣病を予防するための研究を遂行中です。

農研機構を選んだ理由は

大学では獣医学を学んでいたのですが、自分のスキルを生かし、生き甲斐をもって働き続けられる職場を求めて、当時の国立研究機関(現 独法研究機関)を選びました。

獣医学の知識やスキルを活かす職種はかなり幅広くあるのですが、私が就職した1985年頃は、民間企業では結婚したら女性はやめて当たり前、ましてや育児をしながら働き続けるなんて考えられないことでした。私の学生時代、国の研究機関に勤める女性研究者が学会で座長を務めるなど、少数ながら活躍さ れている姿を見て、「あの職場なら働き続けることが可能なんだ」と思ったものです。

学生時代と今の仕事(研究)とは、どのような繋がりがありますか

学生時代は、乳牛の脂肪肝に関する研究をテーマに、肝臓の切片を作って顕微鏡を覗く毎日でした。それを考えると、現在の仕事と直接的な関連性はありません。しかし、動物を使った実験や組織染色技術など、学生時代に培った技術を最大限利用していると思います。

食物アレルギーをテーマに研究するようになったのは、研究所に採用となり、現在も所属しているこの部屋に配属されてからです。始めは分からないことだらけで手探りで進めていました。何年か続けていくうちに、ドキドキしたりワクワクしたりといった楽しさや達成感を感じられるようになりました。

仕事の面白さややりがいについて教えてください

新しい事実がわかったとき、それが自分たちの食生活に直につながる製品開発に結びついたときは最高です。私たちの研究の成果は、自分たちの食生活 に直接反映されるので、たくさんの人に、いろいろな畜産物のことを知ってもらうという仕事はやっぱりやりがいあると思いますよ。

今後の仕事(研究)における夢は何ですか

アレルギーや生活習慣病など、身近な疾病を予防できる食生活の実現に貢献することですね。アレルギーについて講演をする機会があると、実際に食物 アレルギーの子どもを持つお母さんから相談を持ちかけられることもあります。ですが、私は医師ではないので、すぐに症状を改善できるようなアドバイスはで きず、もどかしい思いをすることもあります。そういった食品科学と医学との隙間を埋められたら、ということも考えています。

それから、楽しい食生活への貢献。卵や牛乳、肉を調理しながら、この中にはいろいろな機能性(いい機能性ばかりではないことも含めて)があるということを、多くの人に理解してもらい、自分たちの食生活を豊かにしてもらえればと思います。

食物アレルギーの研究を始めた頃、自分も子育てをしていたこともあり、常にお母さんの目線で研究に取り組んできました。自分も健康でありたいとか、お肌がきれいになりたいとか、そうした日常生活と密着した願いや希望も、研究活動への動機になっています。

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研究所の圃場で草をはむ牛たち

女子学生・ポストドクターへのメッセージをお願いします

研究に関していえば、女性だからどうのこうのということはありません。世界を相手にする研究ももちろんできるし、自分で切り開ける世界、可能性、将来性がある。忙しくて、大変なことは確かですが、恐れ悩む前にやってみて、自分の力を試してみてはどうかなと思います。

仕事と家庭(生活)とのバランスについて、ご自身の考えや工夫されていること

仕事は仕事、家庭は家庭でモード切替えを行っています。これは不思議と意識せずにできています。外で買い物している姿は職場とは全く別人らしく、誰にも気づいてもらえないくらい(笑)。

二人の子も大学生、高校生となり、子育てはもうじき一段落します。

今は自分の父母の介護と仕事との両立が課題です。裁量勤務制度などを利用して時間の使い方を工夫しながら何とかやっています。育児と違って介護は 先が見通せないところが辛いですね。こちらの想定を上回って状況は良くない方に進んでいきますので。でも、あまり一人で抱え込まず、ケアマネージャーさん やヘルパーさんなどを信頼してお願いできることはお願いするようにしています。確かに忍耐は必要ですが、我慢はあまりせず、くよくよせずに、いつもラッキーと思って前向き思考を心がけるのがこうした状況を乗り切るコツかもしれません。

育児も介護も孤軍奮闘では難しいです。ですから、Give&Takeの心を忘れずに。Takeだけでは家庭も職場もぎくしゃくすると思い ます。辛いときには周囲に向けて声も上げられないことがあります。そうした仲間に手を差し伸べる気遣いが、いずれは自分を助けます。お互い様の環境を主体 的に作っていくことが、楽しく研究を続けていくために必要だと思いますね。

(取材日:平成21年12月)