ダイバーシティ推進 Diversity and Inclusion

荒井 裕見子 次世代作物開発研究センター 主任研究員

東京農工大学大学院博士課程修了後、日本学術振興会PD(作物研究所)、作物研究所研究助手。その後、作物研究所任期付研究員を経て、研究員として採用。主任研究員に昇任。組織改編に伴い、平成28年より現職。

一歩踏み出せば「みんなの支え」で乗り切れる 自分らしい仕事と子育ての時間を

農業に関わる仕事がしたい

学生時代、長期休みになると先生のご紹介で農家にボランティアに行きました。北陸から九州まで、様々な地域の農家のお家や納屋に泊まり込みです。稲作、花卉、野菜、果樹、畜産などで、生産・飼育から販売まで経験させていただきました。机上での学問だけでなく、「現場で農学を学ぶ」貴重な経験の中で、将来は農業に関わる仕事に携わりたいと感じました。また、農家の方から色々なお話を伺い、生産現場と自分の農業研究が離れて いるように感じ、農業と研究を繋げるためには、どうすれば良いか考えるようになりました。

仕事と子育ての葛藤

作物研究所(現 農研機構 次世代作物開発研究センター)での3年間のポスドクの後に、1年間研究助手として雇用されているときに第1子を妊娠しました。その頃に採用面接があり、多くの方に支えて頂いたことを覚えています。採用通知を頂いて、4月から職員として働くことになり、就職と保育園の申請に間に合わせるために、産休明け8週間で復帰しました。それまでずっと時間に制限のない自由な研究生活をしていたので、定時に帰る生活に切り替えるまで、後ろめたさもあり結構葛藤がありました。周囲の方の助けを借りて、何とか乗り越える ことが出来ましたが、それでも最初の1年間は慣れない仕事と子育てで本当に大変でした。

育休は子供とのかけがえのない時間

4年後に第2子、その2年後に第3子を出産しました。第2子のときは1年間、第3子のときは半年間の産休・育休をいただきました。産休と育休の時間はとても楽しく、子供達とのかけがえのない時間でした。保育園の送り迎えを片道1時間以上かけて、虫を捕りながら歩いたり、公園に寄ったり、お話ししたりしました。
ゆっくりとした時間を過ごす中、家族や自分にしっかりと向き合うことが出来ました。また子育てをする中で、多くの大切なことを学びました。例えば、困った時には周囲に頼ること、相手に自分の考えを伝えること、職場や地域、家族とのつながりを持つこと、その時々で今何が大事か、何をやるべきかを考えることです。働き方も少しずつ変わりました。子どもが病気になることも多く、勤務時間は限られています。そのため、やるべき仕事に優先順位をつけ無理のない計画を立てるようになりました。どんな時でも、その場その場でなんとか課題をクリアしてきました。時間的な制限はあるものの、そのためにプロジェクト等への参加が難しいとか、仕事が滞ってしまうということは無かったと思います。
産休・育休の時の幸せな時期があったからこそ今でも、仕事も子育ても頑張ることが出来ます。親子ともに素敵な思い出です。普段の休日は家族みんなで過ごす時間にしていますし、たまに休みを取ることで、子ども1人ひとりと1対1で遊ぶ時間をつくるようにしています。

研究支援要員による心強い支援

農研機構は、他の職場に比べてとても子育てに理解のある職場だと感じます。私は研究支援要員の雇用経費補助制度を利用しましたが、産休・育休の時や仕事に復帰してからも、支援要員が変わらずユニットに居ることはとても心強いことでした。産休・育休を取りながら、他の予算で契約職員を雇用し続けることはとても難しい事だと感じていましたので。研究のペースは遅くなりますが、研究を継続できる、周りの研究者の負担を少なくすることができる、ということは本当にありがたいことでした。また産休・育休から復帰した時に、自分の戻る場所があるように感じました。

研究と農業をつなぐために

農業現場で役立つ研究がしたいと考えていました。今年度、プロジェクトで多収・良食味のお米の品種の栽培マニュアルを作りました。生産者や実需者にとって重要なポイントが、誰にでも分かるように工夫しました。伝えたいことを明確にするために、内容だけでなくデザインにも気を つかいました。生産や実需の現場で1)配布する、2)検討してもらう、3)利用してもらう、4)継続してもらう、の4段階を進んでくれると嬉しいです。また作成の際には、栽培分野以外の様々な稲生理の研究成果や知識も役立つことを実感しました。今後も「何のための、誰のための農業研究か」にこたえられる研究を続けたいと思っています。

*研究支援要員の雇用経費補助
農研機構において、育児・介護などにより時間的制約のある職員に対して、契約職員を雇用する経費を補助する制度。