ダイバーシティ推進 Diversity and Inclusion

私とワーク・ライフ・バランス

子育てに対する周囲の理解と包容力のある雰囲気に支えられています

盛岡の夏祭り(さんさ踊り)に家族で参加しました出口新さん
東北農業研究センター 畜産飼料作物研究領域
主任研究員

嶝野英子さん
東北農業研究センター 畜産飼料作物研究領域
主任研究員

(写真)
盛岡の夏祭り(さんさ踊り)に家族で参加しました

今の仕事(研究)について教えてください

(出口)飼料用トウモロコシの栽培、特に施肥について研究しています。環境への負荷を減らし、また価格が高騰して問題となっている肥料のコストを抑えるために、施肥量を削減する栽培技術の開発に取り組んでいます。

(嶝野)牛のサイレージ(発酵飼料)の品質や栄養価についての研究をしています。これまでは牧草のサイレージを中心に品質をはじめ牛の嗜好性などに ついて仕事を行ってきましたが、最近は国産のタンパク質粗飼料としてダイズの全草(ホールクロップ)をサイレージとして利用するための研究にも取り組んで います。

農学を志されたきっかけについて教えてください

(出口)中学生の頃から環境問題に興味があり、当時、新聞の1面に載った砂漠緑化の記事を目にしたのがきっかけでしょうか。記事には緑化に携わって いらした農学部の先生のお話が載っていて、それで農学分野に関心を持ちました。縁あって修士課程ではその先生の下で研究をすることができました。

(嶝野)実家が九州で小倉競馬場が近くにあり、小さな頃から馬に親しんでいました。馬や牛といった大型の動物を扱う仕事に就きたかったのですが、小 柄な体格では獣医は無理と思い、農学部の畜産学科に進学しました。大学時代は馬術部に入り馬の世話もしていました。担当者によって与えるエサの量が一頭一 頭違うのですが、そうすると体型もそれぞれに変わってきます。その経験から飼料に興味を持つようになりました。

これまでのキャリアを振り返って、特に印象に残っている出来事があれば教えてください

(出口)研究や家庭生活に直接関係はないのですが、大学の研究室の助手の方と、調査のためにインドネシアに10日間くらい滞在した経験は、とても印 象に残っています。そこは熱帯雨林の山奥で、滞在した小屋の近くを流れる川の水は真っ赤に濁っていました。朝出かける時に川の水を汲んでおき、戻ってくる とその上澄みで体を洗うのですが、水のせいかあっという間にお腹をこわしました。日本とはまるで違う環境で寝起きした体験は、今でも時々思い出しては面白 かったなぁと振り返っています。

(嶝野)私は岩手大学に国内留学した経験が印象深いです。教育学部家政教育科でサイレージの匂い成分について研究をさせてもらいました。サイレージ は発酵飼料なので、漬け物のような酸っぱい匂いがします。私は匂いに敏感な方で、ある時牛が好んでよく食べるサイレージからホットケーキのような甘い匂い がするのに気がつき、それが岩手大での研究に取り組むきっかけとなりました。

大学の研究室にサイレージを持ち込んだ時は、食べ物とはいえ牛のエサですから「本当にこれを調べるのですか」って引かれましたね。大学では匂いの分 析手法を学び、研究成果をまとめた論文でその後博士号を取得しました。また発見した匂い成分から牛の食欲を増す添加物を開発し、現在特許を申請中です。

大学でお世話になった研究者や学生とは今も交流があって、我が家に遊びに来ておしゃべりしたり、泊まっていったりしてくれます。研究の進展はもちろんですが、留学によって人脈が広がったことも印象が深い理由ですね。

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国内留学先の研究室の方との記念の一枚

お二人が知り合ったきっかけを教えてください

(嶝野)私の方が早く東北農業研究センターに就職したのですが、職場のテニス部員として新人勧誘で声を掛けたのが、彼と知り合うきっかけだったと思 います。それから、彼の上司に「出口君をスキーに連れて行くから道具選びに付き合ってやってくれ」と頼まれて、一緒に買い物をしたこともありました。研究 よりは職場関係でのレジャーを通じてお互いの人となりを知ることが多かったですね。

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旅行先(北海道)でカヌーを楽しみました

結婚して「パートナーが研究者で良かった」と思うことがあれば教えてください

(出口)仕事の流れとか、内容について理解してもらえるのはありがたいですね。分析の追い込みで帰宅が夜遅くなるとか、朝5時から収穫に出かけなく てはならないとかで、家事や育児にどうしても関われないことがあります。それを理解した上で生活面のフォローをしてもらえるのは助かります。あとは仕事で 煮詰まっている時ですね。同じ研究者で、しかも彼女の方が先を行っているので、どういう状況で煮詰まっているのか大体分かってくれているようです。

(嶝野)もともと匂いに敏感なのが妊娠中はつわりで更に匂いを強く感じるようになり、当時取り組んでいたエサの給与試験の作業が全くできなくなった ことがありました。事情を理解している彼と上司がサンプリングを引き受けてくれて、とても助かりました。彼にしてみれば、夫だからと言うよりは同僚として フォローしてくれたのかもしれませんが。

ご自身のワーク・ライフ・バランスについて、大切にしていることや苦労されていることを教えてください

(嶝野)今2歳になる姉妹を育てています。双子なので、食事の介助も保育園の送迎も一人では手が足りません。仕事の状況によっていつもではないので すが、育児は夫婦で半分ずつ分けあっています。仕事に関しては、もう少し時間があったならと考えて焦りを感じることもありますが、今は気持ちを家庭の方に シフトしています。何故なら双子を育てるなんて滅多にないチャンスですし、娘たちを見ていると外見は似ているのに行動は全然違っていて面白く、今しか味わ えない子育ての醍醐味があるように思うからです。

(出口)彼女の言うとおり、子育ては楽しいですね。子どもたちのおかげで気持ちがリフレッシュできます。子育てが始まる前は24時間全てが自分の時 間でした。今は夕方5時過ぎには仕事を切り上げて保育園のお迎えです。時間は短くなったけど、それなりに仕事はこなせています。やりようでなんとかなるこ とが分かると、それまでの自分の時間の使い方や仕事の進め方について反省するところもありました。

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初めての国際学会で緊張しました

仕事と生活の両立のために、一番必要と思うことを教えてください

(出口)子育てと仕事との両立で言えば、周りの人の理解に随分と助けられています。上司や同僚に子育てをしている人がいて、例えば子どもが熱を出し てお迎えにといった時も、すんなりと職場を抜け出すことができます。フォローし合う雰囲気があり仕事へのストレスを感じずにすみます。今は圧倒的に助けら れている方なので、いずれは自分が助ける側にと思っています。

(嶝野)現場の技術専門職の方やパートで来てくださっている方の雰囲気がとてもいいですね。東北の人は包容力があるというか、まずは受けとめてくれるという感じがあります。そうした職場の雰囲気に支えられて、仕事にも子育てにも向き合っていくことができています。

活用した農研機構の制度(休暇等)があれば教えてください

(嶝野)仕事と育児の両立では裁量労働制、子どもの看護休暇が役立っています。また出産前後で私は2ヶ月間里帰りをしていたので、出産に伴う特別休暇を活用して彼が実家に会いに来てくれました。

(出口)私もやはり裁量労働制が役に立っていると思います。子どもが急に熱を出した場合などに助かっています。

後輩の研究職員や、次世代の研究者へメッセージをお願いします

(出口)育児を楽しめるシチュエーションになったら、周りに助けてもらってください。私はできる限りフォローしたいし、そういう職場であるようにしたいと思っています。

(嶝野)1つの世界だけで仕事に没頭するのではなく、人とつながって他のコミュニティーと関わっていくことも大切だと思います。私は家に仕事を持ち 帰らず、生け花やテニスなどの趣味も楽しんでいますが、その方が仕事に対しても気持ちの切り替えがうまくいくような気がします。

(出口)彼女と結婚して子育てもして、もともと人付き合いが多い方ではなかった私自身も人との繋がりが広がりましたね。

(取材日:平成24年2月)