ダイバーシティ推進 Diversity and Inclusion

私とワーク・ライフ・バランス

周囲への感謝を忘れず、得られた結果には謙虚な姿勢を保ちたい

rolemodel2-05-01山崎敬亮さん
近畿中国四国農業研究センター 環境保全型野菜研究領域
主任研究員

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2人の娘を抱っこして(いつまで抱っこさせてくれるかな?)

今の仕事(研究)について教えてください

所属研究領域の大きな目標として、環境保全型野菜生産技術の体系化があります。その中で、私は植物体を取り巻く光環境の制御について研究していま す。光環境を制御することで、作物(野菜)の生育を促進・増進したり、病虫害を抑制したりする技術を開発しています。扱っている野菜の品目は、ホウレンソ ウなどの葉菜類やイチゴなどです。

光環境を制御すると言っても、ただ光(太陽光)の強度を弱めたり強めたりするだけではなく、太陽光に含まれる赤、緑、青色のバランスを変えて、野菜生産 に有効な光の質、「光質(こうしつ)」を探索しています。最終的には、それぞれの野菜に最適な光質を透過するハウスの外張りや内張り用の被覆資材を開発す ることを目指しています。

また、夜間に微弱な緑色の光を施設内に点灯しておくと、植物の生育にはあまり影響を及ぼさずに、夜行性のヤガ(夜蛾)類の飛来や産卵を抑えること ができます。一方で、紫外線(UV-B)を一定時間植物体に照射することで、病害に対する耐性が高まることがわかってきています。さらに、果菜類の花芽分 化を制御できる光質も徐々に明らかとなってきました。こうした複数の光の効果を同時に得られるような施設栽培向けの照明・補光システムの開発も目指してい ます。

これまでのキャリアを振り返って、特に印象に残っている出来事があれば教えてください。

昨年6月にプレス発表を経験しました。「温暖化に適応するための技術」として「高設栽培イチゴの収穫の中休み軽減技術」について発表したのですが、学会やシンポジウムとは異なり、メディア向けに発表するという点で新しい経験でした。

取材に来ていただいた記者の数はそれほど多くはなかったと思いますが、いつもの学会発表などとは違う緊張感がありました。成果の説明を終えて、個別の質問 に応えている時には、それまであまり経験したことがないほどの冷や汗(?)をかきました。数年かけて研究・開発してきた成果を取り上げていただいて大変光 栄でしたが、一方で、完成した技術として世の中に報じられることになるわけですから、責任も大きいということを感じたからだと思います。

現在の私たちの研究環境は、「成果重視型」となってきています。国民の血税で研究を進めているわけですから、成果の発信は当然のこととして、今後もこのような機会が増えてくると思います。自信を持って成果を発表できるように、研究を進めていきたいと思った出来事でした。

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プレス発表では実物も示しながら説明を行いました

仕事以外の経験から研究活動(仕事)に活かしたことはありますか。

仕事に活かしているとまでは言えませんが、心がけていることはあります。30代半ばの私の年代では珍しいのですが、私は仏教のお寺によく話を聞き に行きます。仏教と研究とは全く結びつかないと思われるかもしれませんが、仏教は宇宙の真理を説いているので、実はサイエンスと非常に結びつきが強いので す。仏教のお話を聞いていると、私たちが研究していることや、解明したこと、開発した技術というものは、宇宙の真理のほんの一部のことにすぎないというの が改めて実感させられます。どんなに革新的で素晴らしい研究ができたとしても、それは宇宙の真理からすればわずかなことであり、決して驕ってはいけない、 常に謙虚でいなければならないと気づかされます。研究は競争でもありますから、積極的に精力的に実施しなければならないのは当然ですが、一方で、そこから 得られた結果に対しては、謙虚な姿勢を保ちたいと思っています。

ご自身のワーク・ライフ・バランスについて、大切にしていることや苦労されていることを教えてください。

この取材の話をいただいたときに、正直、私は仕事と生活のバランスが取れているとは思っていませんでしたので、私が取材を受けてよいのかと迷いました。

3歳と6か月になる二人の娘がいますが、毎日苦労しているというか、やはり大変です。取り立てて大切にしていることはなく、子どもの世話や家事全 般についても、妻と私とで、どちらかできるほうがやるという感じです。子どもは小さく、毎日のように成長し、変わっていきますので、一日一日、その日に合 わせて、その日のバランスで生活しています。

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お姉ちゃんは妹のお世話をしてくれるので大変助かります(?)

仕事と生活を充実させるための工夫や、心がけていることがありましたら、教えてください。

仕事の上では、他の研究員や技術専門職員、契約職員の皆さんとのコミュニケーションを大切にしています。研究、特に私が行っているような野菜の栽 培に関する研究は、到底一人でできるものではありません。周囲の方の協力があって初めて成り立ちます。ですからその方たちへの感謝を忘れず、お互いに気持 ち良く仕事ができるように日常の会話をはじめ、研究内容の説明などにできるだけ時間をとるようにしています。

今の職場に入った頃は私もまだ20代で、デスクワークそっちのけでほ場に出て、職員の皆さんと一日中作業やほ場調査をやっていました。そうするこ とで当然ほ場での仕事の要領を覚えますが、他の職員と触れ合うことができ、気心が知れて仕事の効率も上がりました。この時期にほ場で十分なコミュニケー ションを図れたことは、研究の推進に非常に効果がありました。最近はデスクワークがどっさり増えて、ほ場に出る機会が減ってきましたが、それでも最初にで きた「絆」というのか、技術専門職員さんや契約職員さんは、簡単な説明や指示だけで栽培管理や試験調査に至るまで、何でもこなしていただけるようになりま した。イチゴなどの栽培に関して言えば、もうすでに私より詳しいかもしれません...。
生活で心がけていることは、「家庭に仕事を持ち込まない!」と、格好いいことが言えればいいのですが、残念ながらそんなことはできていません。ですが、休日や年次休暇を取得したときなどは、できる限り家族と過ごすようにしています。

活用した農研機構の制度(休暇等)があれば教えてください。

二人の子どもが生まれるときは、いずれも里帰り出産でしたので、出産前後の特別休暇と年次休暇を利用しました。また、普段は裁量労働制を活用しています。特に子どもの保育園への送迎や急病時には、ありがたい制度だと思っています。

後輩の研究職員や、次世代の研究者へメッセージをお願いします。

私たちは将来の農業に貢献できる研究や技術開発を行っているわけですが、農業だけにとらわれないように、自分自身は心がけています。どういうこと かと言うと、農業以外のいろいろな分野に、農業にとって有益なアイディアやアイテムが散らばっているということです。そして、農業だけを見ていたのでは、 現状を打破するような革新的な技術や農業システムは生まれてこないと私は思っています。ですから、現状から目をそらすわけではなくて、それを意識しながら 違う世界も絶えず探索して、新しいアイディアを農業に吹き込んでいければと思っています。他の研究員の方がどのように感じるかはわかりませんが、私のよう な考え方も時には有効だと思います。

前にも述べましたが、私たちの研究は「成果重視型」の傾向が強まっています。成果を出し続けることはなかなかできることではありませんが、少しずつコツコツと積み上げて前へ進んでいきましょう。

(取材日:平成24年1月)