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第269回鶏病事例検討会 講演要旨

  • 開催日時: 平成25年6月21日(金曜日) 13時00分~
  • 場所: 農林水産技術会議事務局 筑波事務所本館2階、農林ホール
       茨城県つくば市観音台2-1-9
  • プランナー:坂井 利夫(有限会社坂井利夫家禽・家畜診療所)
  • 司会者: 陰山 潔(千葉県中央家畜保健衛生所)

テーマ: 顔面腫脹事例

2008年にウィンドウレス鶏舎で伝染性コリーザ(IC)が発生した。ICの臨床症状に顔面腫脹がみられるが、他の鶏病で顔面の腫れる症例を整理しておきたい。また、今回のような大群に発生したICの対処法も紹介できればと考えている。

1. 家きんの顔面腫脹例

坂井 利夫 (有限会社坂井利夫家禽・家畜診療所)

腫脹は浮腫,腫瘤,膿瘍(化膿性炎)などによって皮膚が異常に膨らむ。家禽の顔面腫脹も臨床ではこのような所見を示すため比較的に発見しやすく、意外に多い症状であるが、一方で病名,原因の特定は容易では無い。主な病因では鳥インフルエンザ,鶏痘,鶏白血病,ニューカッスル病などウイルスによるもの、鶏伝染性コリーザ,パスツレラ症,大腸菌症,ブドウ球菌症などの細菌によるものがある。また、マイコプラズマおよび大腸菌などとの複合感染によるものとして頭部腫脹症候群(SHS),以前にC-CRDと呼ばれていたようなマイコプラズマ症などもある。その他に、マイコプラズマ不活化ワクチンの接種部位にオイルシストを形成して顔面腫脹が発生した事例もある。近年ではワクチンで防圧したと考えられていた鶏伝染性コリーザ(IC),鶏伝染性喉頭気管炎(ILT)の発生報告があり、病因特定に慎重をきたす場面が増えてきている。このことを踏まえ、今回は家禽の顔面腫脹を原因別に整理しておきたい。

2. 肉用鶏の顔面腫脹の3例

橋本 信一郎 (丸紅畜産株式会社)

1.1996年12月に8日間で約11%が死亡した54日齢の一群では顔面・肉垂の浮腫とチアノーゼ、呼吸器症状、神経症状がみられた。鳥インフルエンザの抗体検査で陽性があったがウイルス分離検査で陰性だった。
2.2013年3月に7日間で約5%が死亡した36日齢の一群では顔面の軽度の腫脹、鼻汁の排泄、呼吸器症状、心膜の混濁肥厚と肝臓表面の線維素性滲出物がみられた。大腸菌症と診断しニューキノロン製剤を投与したところ回復した。IB抗体価が上昇していた。
3.2013年5月に6日間で約2%が死亡した30日齢の一群では眼瞼周囲から頭部全体の腫脹、元気消失がみられた。aMPV抗体価が上昇していた。

3. 頭部腫脹症候群の病理

中村 菊保 (農研機構 動物衛生研究所)

頭部腫脹症候群(SHS)は、鶏の頭部、とくに顔面の水腫性腫脹を示す症候群である。 最初、1984年南アフリカで報告され、その後、世界各国で発生がみられた。わが国では1990年最初に兵庫県で発生が報告された。 主にブロイラーひな、時にブロイラー種鶏、採卵鶏でも発生した。細菌とウイルスの混合感染によるとされている。病変部からは主に大腸菌が分離される。時にパスツレラ・マルトシダが分離されることがある。 ウイルスとしては、最初七面鳥鼻気管炎ウイルス(トリメタニューモウイルス)が疑われたが、その後それ以外の呼吸器障害ウイルス(伝染性気管支炎ウイルス)の関与によるという報告が出てきた。肉眼的には、顔面皮膚は 赤くなり、眼瞼は腫脹する。重度な症例では顔面全体が腫脹する。組織学的には、眼瞼結膜炎、鼻炎、眼窩下洞炎、中耳炎、頭蓋骨air spaceの化膿性炎症がみられる。一部の鶏では、心外膜炎、肝被膜炎、肝臓の類洞内血栓、 脾臓の濾胞壊死がみられる。また、パスツレラ・マルトシダが分離される症例では、脳に化膿性炎症を示すことがある。

4. ブロイラーにおける鶏パスツレラ症

尾崎 裕昭 (鳥取県農林総合研究所)、植松 亜紀子 (鳥取県西部家畜保健衛生所)
梁川 直宏、岡田 綾子 (鳥取県倉吉家畜保健衛生所)

鶏パスツレラ症はPasteurella multocida による細菌性疾患で、ブロイラー、採卵鶏、種鶏等において各地で散発し、生産性を阻害する重要な疾病の一つである。本症の急性型は沈鬱や発熱、食欲廃絶、下痢などが見られ、慢性型では関節炎や斜頸が認められる。脚弱を呈することから、大腸菌やブドウ球菌症と混同されやすく、また、斜頸等の神経症状はインフルエンザやニューカッスル病等の重要疾病との類症であることから正確な診断が求められる。演者らは、迅速な診断と対応に役立てるため、2005~2008年までの4 年間、3農場7 事例について、臨床症状と解剖所見を主体にとりまとめたので紹介する。

5. Pasteurella gallinarum Pasteurella multocida が分離された採卵鶏の顔面腫脹の一例

松川 浩子、丸田 哲也 (宮崎県宮崎家畜保健衛生所)

県内の採卵鶏農場で120日齢のボリスブラウン1万2千羽に顔面腫脹が散発的に発生。症状を示す4羽について病性鑑定を実施。剖検所見では顔面の片方が著しく腫脹、同部皮下および眼窩洞にチーズ様物または膠様物貯留。病理組織学的検査では腫脹部皮下に偽好酸球・細胞頽廃物からなる膿瘍および皮下織の境界部では肉芽組織増生を確認。細菌学的検査では眼球周囲内容物より Pasteurella gallinarum (以下P.g)と P.multocid a(以下P.m)を分離。P.mはPCR検査により莢膜抗原がA型と同定。ウイルス学的検査はトリニューモウイルス特異遺伝子陰性。本症例はP.mとP.gの混合感染による慢性型の鶏パスツレラ症と診断。

6.誘導換羽後に発生した鶏伝染性コリーザ

合田 光昭 (JAあいち経済連農畜産物衛生研究所)

2010年1月、A成鶏農場で、顔面腫脹、鼻汁漏出を主徴とする伝染性コリーザ(IC)の発生をみた。発症鶏は鼻炎、顔面腫脹部皮下の水種、気管炎、気嚢炎などが認められた。
鶏舎はウインドウレス、直立8段、トンネル換気であり、1棟を2室に区切り、8群/4棟が飼養されていた。発生は誘導換羽明けの498日齢群で約50羽/58,000羽にみられ、隣接する560日齢群及び他の棟の130日齢~680日齢群に発症はみられなかった。
鼻粘膜からアビバクテリウム・パラガリナーラムが分離(PCRで同定)され、またA型(化血研開発プライマーによるPCR)と型別した。本菌は5~10%鶏血液加寒天培地(5%CO2下)で分離されず、5%馬血液、β‐NAD加寒天培地(5%CO2下)で分離・増殖した。本農場周辺地域でICの流行があった模様。

7.PCR による鶏伝染性コリ-ザ原因菌 Avibacterium paragallinarum (A.pg)の型別判定

坂元 隆一 (一般財団法人 化学及血清療法研究所)

伝染性コリーザの診断においては、ワクチン抗体と感染抗体の識別ができないこと、また感染後も抗体の誘導を認めない場合があることから、血清学的診断は殆ど行われず、分離菌を凝集反応によって同定しなければならない。しかしながら、同定には特異的な抗血清が必要であり、作業も煩雑である。この課題を解決すべく、PCRを用いた簡便な血清型識別法の検討を行った。その結果、PCRでは各血清型に特異的なサイズの断片が増幅され、PCR-RFLPでは血清型に特異的なRFLPパターンが示された。以上より、PCR及びPCR-RFLP法はA. pgの型別判定において有用なツールとなると考えられた。