九州沖縄農業研究センター

スクミリンゴガイ

スクミリンゴガイの卵塊はなぜ水上に産まれる

スクミリンゴガイの卵塊は水上1m以上も高い所に産みつけられることがある

スクミリンゴガイの雌貝は日が暮れると水の中から這い出してきて、稲株や水路の側壁などに鮮紅色の卵塊を産みます。スクミリンゴガイは水中の酸素を 取り込む鰓と空気中の酸素を取り込む肺に似た器官を持っています。基本的には水棲ですが、陸にもある程度適応していることがわかります。

では、なぜ、他の多くの淡水貝のように卵を水中に産まないのでしょうか。水上に産卵すると、卵の水分を保持するために殻の石灰化などのコストがかかると考えられます。雌貝が鳥などに襲われる危険も増えるでしょう。水上に卵塊を産むメリットは何なのでしょうか。

同じリンゴガイ科(Ampullariidae)の貝でもAsolene属やMarisa属などでは水中に卵塊を生みます。スクミリ ンゴガイの属するPomacea属やごく近縁のPila属でこの水上に産卵するという習性が進化しました。これらの貝が好んで生息するよどんだ水系の酸素 不足から逃れるためという説があります。しかし、それよりも捕食者(天敵)から逃れるためではないかという説が有力です。水中には魚や甲殻類、カメなどた くさんの捕食者がいます。実際、卵塊から出てきた孵化貝の多くは、それらの天敵に捕食されてしまいます。卵塊を攻撃する捕食者は水中の方が水上より多いの で、水上に卵塊を産むように進化したと考えられています。

スクミリンゴガイの卵塊を捕食する生物としてはこれまで原産地(南米)で極く少数の鳥と、東南アジアでのアリ以外はほとんど知られていません。実際、日本の水田などで、卵塊が捕食されることはほとんどありません。卵塊を水上に産み、警戒色つきの苦い味(卵塊はなぜ赤い、参照)で二重に防御したスクミリンゴガイの卵塊を保護する戦略は、ほとんど捕食者を寄せつけずに大成功をおさめたように見えます。

(W)