九州沖縄農業研究センター

スクミリンゴガイ

スクミリンゴガイの不思議な性比

スクミリンゴガイなどの有害種をコントロールするためには、相手の事をよく知らなくてはなりません。なかでも繁殖について知ることは、増殖を抑える方法を見つけ出すヒントになる可能性があり、特に重要です。そういったことから、この貝の性比(雄と雌の数の比)について調べてみたところ、面白い現象が見つかりました。

まず、たくさんの卵塊から孵化貝を取り出し、実験室内で50日以上飼育して大きくしてから雌雄を判別すると、ほぼ雌雄同数でした。これはわれわれ人間をはじめ、多くの動物と同じです。ところが、卵塊ごとに孵化貝を飼育すると、性比は卵塊ごとに大きくばらつくことが分かりました(図1)。つまり偶然とは思えないほど性比が雄に偏ったり、雌に偏ったりする卵塊が多く見られ、中にはランダムに選び出した孵化貝80頭すべてが雄であった卵塊もありました。こういった傾向は調査した3年間とも見られ、また無農薬水田から採集した卵塊を孵化させても同様の結果が得られました(図1)。つまり、農薬などいわゆる「環境ホルモン」の影響なしに、スクミリンゴガイでは性比が卵塊ごとに大きくばらつき、かつ全体の性比はほぼ1:1であるということになります。

このような特徴をもつ性比のばらつきは他の動物ではほとんど知られていません。そのため、なぜ性比がばらつくのか(適応的意義)、およびどのようにばらつくのか(メカニズム)というふたつの疑問が生じます。残念ながら、現在のところその両方の疑問ともに満足のいく答えは得られていません。適応的意義に関し ては、全体の性比が1:1になることにはそれなりの意義がある(どちらか一方の性に偏っていると他方の性が得をする;Fisherの頻度依存性選択)とは言えるものの、ばらつくことのメリットはよく分かりません。逆にこの貝のように小集団で生活している動物では、集団内が偶然雄ばかりや雌ばかりになってしまう可能性があるため、性比はばらつかないほうが有利であると考えられます。一方メカニズムに関しても、環境要因ではなく遺伝的にばらつきが生じていることは判明していますが、具体的にどのような遺伝的メカニズムが関与しているのかは不明です。今後これらのことを明らかにし、防除に役立てていきたいと考え ています。

(Y)

図1.孵化貝(最大80個体)に占める雄の割合(性比)の卵塊ごとの頻度分布.黒い部分は二項検定で性比が0.5より有意(P<0.05)に異なる卵塊を示す
図1.孵化貝(最大80個体)に占める雄の割合(性比)の卵塊ごとの頻度分布.黒い部分は二項検定で性比が0.5より有意(P<0.05)に異なる卵塊を示す