中央農業研究センター

水稲の移植晩限 東日本大震災への対応

2011年3月11日の東日本大震災により、津波による冠水、圃場の液状化、パイプラインなどの用排水設備の損傷などにより、水稲の移植期の遅れが懸念されています。そこで、気象データと生育予測モデルを用いて、東北、関東甲信地域を対象に移植晩限日の推定と、それに伴う減収程度の推定を試みました。

水稲の移植栽培における晩限日の推定について

独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構
独立行政法人 農業環境技術研究所

2011年3月11日の東日本大震災により、被災地および被災地周辺の農耕地において、冠水、液状化、パイプライン等の灌漑設備の損傷が生じています。それら農業インフラの損傷および諸般の事情により、水稲作付が可能であっても移植期の遅れが生じる地域が相当面積に及ぶことが懸念されています。そこで、気象データと生育予測モデルを用いて、東北、関東甲信および北陸地域を対象として、移植晩限日の推定を試みました。

1.移植晩限日の求め方

移植晩限の検討のためには、低温による登熟不全と収量低下の2つのリスクの回避を考慮することが必要です。このことから、以下の1、2の方法で推定した移植晩限日のうち、早い方のものを安全な移植晩限日としました。

  • 登熟不良を回避する移植晩限日の推定
    内島(1983)の仮説に基づいて、気温平年値が15℃以下となる初日を、低温による登熟不全を回避する安全成熟晩限日として設定しました。その後、登熟に必要な積算温度と出穂期予測モデルを使用して、安全成熟晩限日から移植晩限日を推定しました。
  • 収量減少率による移植晩限日の推定
    まず、水稲の生育・収量予測モデルSIMRIW(Horieら1995)を用いたシミュレーションによって、最近20年間の年々の気象条件下で様々な移植日を仮定して粗玄米収量を推定し、各移植日における推定収量の年次平均値を算出しました。各地の移植盛期において推定された粗玄米収量を基準に、各移植日における減収率を求め、減収率が10%、15%になる日を移植晩限日として推定しました。

2. 移植晩限日の推定結果

表に低温による登熟不全を回避するための移植晩限日(TPL)と10%、15%の減収率で推定した移植晩限日(それぞれYL10%、YL15%)を示しました。TPL、YL10%のうち、早い方の日を安全な移植晩限日として太い赤字で表記しました。TPLの日付で移植した場合の減収率は東北地方等の寒冷地で小さく、関東地方では大きくなる傾向があります。このことより、寒冷地では低温による登熟不全のリスクを重視して移植晩限日を推定すべきであり、一方、関東地方では収量低下のリスクを重視して移植晩限日を推定すべきことが示されました。

3. 留意事項

  • 今回提示した移植晩限日は近年の気象データや生育・収量予測モデル等を下に推定したものであり、玄米品質等への影響までは考慮に入れていません。実際の移植日については、今後の各地域の気象条件や栽培する品種特性に応じ、普及指導機関とも相談の上で設定してください。
  • 減収率の予測については、一般的な栽培方法と特定の品種を前提として検討した結果であり、晩植栽培に取り組む場合には、普及指導機関ともご相談の上、なるべく収量低下を防げるような栽培技術を導入するよう心掛けてください。(晩植栽培の留意事項については、このページもご参考いただけます。)
  • 水稲生育・収量予測モデルSIMRIWは精玄米でなく、粗玄米の収量ベースでモデル化されています。精玄米は粗玄米をふるい目で調整したものであり、気温低下による登熟不良時には粗玄米より減収率が大きくなる可能性があることに注意してください。
  • 移植様式については稚苗移植で想定しています。
  • YL15%がTPLを超えない地点については、多少の減収を許容すれば、稚苗から中苗への切り替え、薄播きによる健苗育成、密植等の適切な晩植適応技術によってYL15%の日まで移植晩限を拡大することも可能と考えられます。(この場合のYL15%は青字で表記しています。)
  • 生育モデルによる移植晩限日推定の詳細および引用文献については、詳細版のページの方をご参考ください。

表移植晩限日の推定