動物衛生研究部門

家畜における生化学病性鑑定のための臨床生化学的検査マニュアル

III.ガスクロマトグラフ

1.ガスクロマトグラフィーとは?

ガスクロマトグラフィーは移動相に気体を用いるクロマトグラフィーです。移動相(キャリヤーガス)としては、一般にヘリウム、窒素などの不活性な気体が用いられます。試料中の物質を分離するカラム(固定相を充填したもの)としては、内径0.5mm以下、長さ数十mのキャピラリー(毛細管)が主流となっています。固定相はキャピラリー内壁に保持されており、試料の性質により吸着力の差を利用する固定相、分配力の差を利用する固定相等を使い分けます。 試料はマイクロシリンジを用いてインジェクターから注入され、カラムに入る前に気化されキャリヤーガスにより運ばれます。試料成分を気化した状態に保つためカラムは特定の温度に加熱されています。このため試料の条件としては揮発性が高く熱に対して安定である必要があります。検出器には比較的汎用性の高い熱伝導度型(TCD)、水素炎イオン化型(FID)や特定化合物に感度の高い電子捕獲型(ECD)、炎光光度型(FPD)などが用いられます。 液体クロマトグラフィーと比べて分離能を高めやすい、迅速分析が可能など利点も多いのですが難揮発性の試料や、熱に不安定な試料の分析は困難です。この場合は適当な前処理(誘導体化)を行なう必要があります。

畜産獣医分野では、主としてFID検出器を用いた揮発性脂肪酸(VFA)、生体の脂肪酸などの分析、ECD検出器を用いた農薬の分析などに用いられています。

ガスクロマトグラフ装置

ガスクロマトグラフ装置

左側から
エアコンプレッサー(除湿装置付き)
オートサンプラー電源
上部:オートサンプラー(あれば便利)
下部:ガスクロマトグラフ本体、水素炎イオン化検出器(FID)付き
クロマトパック(積算機)    

ガスクロマトグラフの模式図

(社)日本分析機器工業会 分析機器の手引きより引用


ガスクロマトグラフの模式図

ガス

窒素ガスの写真
キャリアーガス
窒素ガス(99.995%以上)
検出器ガス
水素ガス(99.995%以上)
圧縮空気(除湿済)

キャピラリーカラム

キャピラリーカラムの写真
(用途に応じて最適なものを使用する)

ガスクロマトグラフ用マイクロシリンジ

ガスクロマトグラフ用 マイクロシリンジの写真
(先が尖っている)
容量10μl

2.キャピラリーカラム使用時のスプリット、スプリットレス注入法

(1)スプリット注入法

試料をGCに注入すると試料気化室で加熱され気化します。気化した試料の1/50~1/100 をカラムに導入し、残りの大部分をベントする注入方法がスプリット注入法です。
キャピラリーカラムの内径は0.1 mm~0.5 mm程度です、そのため混合物を分離するための固定相が少なく、少量の試料しかカラムに導入できません。
試料の成分濃度が高い場合にはスプリット注入法を用います。これによりカラムの負荷が少なくなり、また短時間でカラム内に試料を導入できるのでシャープなピークが得られます。

カラムへの導入量を 1 としたときのベント量をスプリット比と呼びます(例:スプリット比1: 100 )

(2)スプリットレス分析

試料注入後、加熱気化されたサンプルの大部分をカラムへ導入する注入法です。
サンプルがカラムに導入された後、注入口に残ったサンプルをパージすることにより溶媒のテーリングを抑えます。
大部分のサンプルをカラムに導入できるので微量分析に向いています。