役割
本ユニットでは、昆虫と微生物間の相互作用を利用した効果的な害虫防除・作物保護技術開発を目指して、植物ウイルス・共生微生物・天敵微生物と昆虫との相互作用機構を解析するとともに、こうした相互作用を阻害するような制御化合物のスクリーニング技術の開発などを行っています。
主な研究テーマ
昆虫の段階で植物病原ウイルス伝播を効果的に阻止できる新規ウイルス制御剤創出のための基盤技術の開発
ウンカ、アザミウマなどの害虫は作物にウイルス病を媒介することが知られています。こうしたウイルス病は農業現場において大きな被害をもたらしており、根本的な防除技術の開発が求められています。ウイルスー媒介昆虫の分子間相互作用が明らかになれば、この相互作用を阻害することで、昆虫の段階でウイルス病の蔓延を阻止することが可能になると考えられます。そこで、媒介昆虫とウイルスとの相互作用に関わる因子の探索・同定・機能解析を行うとともに、これら因子の機能を阻害する制御化合物のスクリーニング技術の開発を行っています。
左:イネにウイルス病を媒介するウンカ(体長約3 mm)。中央:野菜類にウイルス病を媒介するアザミウマ(体長約1 mm)。右:野菜にウイルス病を媒介するアブラムシ(体長約1 mm)。
低用量で高殺虫活性を有する微生物製剤創出のための基盤技術の開発
バチルス属の昆虫病原細菌(Bt菌)の作る殺虫性タンパク質やボーベリア菌などの昆虫病原糸状菌は微生物殺虫剤として利用されています。これらの製剤は人畜無害であり、環境への影響が少ないなどの利点がありますが、生産コストが高いなどの弱点があるため、農業現場への普及が頭打ちになっています。これらの微生物製剤をより広く普及させるには生産コストの低減や、安定かつ高い効果を得るための技術開発が必要です。そこで、高い効果を示す微生物製剤の創出に向け、Bt菌やボーベリア菌による殺虫機構を最先端の解析技術を駆使して解明するとともに、より効果の高いタンパク質殺虫剤をスクリーニングする技術の開発を行っています。
Bt菌が産生する殺虫性タンパク質毒素(枠内)により、野菜類を食害するコナガの幼虫を防除する。
果樹に被害を与えるカミキリムシがボーベリア菌に感染した様子。
共生に関わる生命現象の根幹を操作することによる革新的な昆虫制御技術の開発
昆虫の体内には、様々な微生物が生息していることが知られています。近年の研究により、これらの微生物の中には、宿主の生存・繁殖にとって欠かせない栄養素を供給するもの、病原菌、外敵あるいは悪環境から身を守るために重要な役割を担うもの、発生、繁殖、生死を直接操作することによって宿主を支配しているものなどが存在することが分かってきました。我々は、特にチョウ目昆虫やカメムシ類に着目し、共生微生物が昆虫の発生・生存・繁殖に及ぼす影響を深く理解することにより、新しい害虫制御技術や有用昆虫大量増殖のための技術の開発を目指しています。
様々な昆虫の細胞内に生息するボルバキア細菌
幅広い昆虫の細胞内に生息するボルバキア細菌は宿主の生殖を巧妙に操作している。写真はカイコ培養細胞内にボルバキア細菌を共生させたもの。青:カイコ細胞の核。緑:ボルバキア細菌。