役割
家畜の生産コスト削減のために、動物の生体防御(免疫)機能を中心とした生理機能について、ゲノムや細胞機能の観点からの解明に取り組むとともに、抗体等の免疫系分子を活用した新素材の開発に関わる研究を行っています。
主な研究テーマ
1 免疫系等の生理機能の機能解析
家畜の生産性を損なう最も大きな原因である感染症の克服のため、病原体感染に対する免疫応答の誘導等、動物の生体防御機能等の生理機能について、モデル動物や家畜を用いて、ゲノミクス・細胞生物学的手法により詳細に解析するとともに、疾患感受性の宿主(動物)側の要因を家畜やモデル動物(マウス)の系を用いて明らかにすることを目指しています。特に、マクロファージ等の自然免疫系細胞の機能の解析や、ヒトやマウス等、免疫学的な知見が集積している動物と比較した際の家畜に特徴的な免疫機構の解明にも取り組んでいます。
【豚の血液由来マクロファージの増殖系の確立】
病原体感染の最前線ではたらく自然免疫細胞の一種であるマクロファージを、豚において血液から単離・増殖させる手法を確立しました。これにより、豚の自然免疫応答について詳細な解析が可能となるとともに、異なる遺伝的背景を有する豚の免疫系のはたらき方の違いを、豚を生かしたまま解析することができるようになりました。
主な研究テーマ
2 遺伝子多様性の免疫能・抗病性等の生理機能に与える影響の探索
家畜感染症の克服のためには、ワクチンや治療薬の開発だけでなく、遺伝的な疾病抵抗性を向上させることが重要です。感染症への抵抗性の高い家畜の作出のために、遺伝子やその他のゲノム領域の多様性と、免疫等の生理機能や、疾患そのものへの感受性・抵抗性との関連について研究を行っています。パターン認識受容体遺伝子をはじめとする免疫系遺伝子中の多型の検索と、検出された多型の病原体認識に与える影響や疾患感受性との関連の解析、あるいは家畜やモデル動物(マウス)を用いたゲノム領域と疾患との関連の解明等に取り組んでいます。
【免疫系遺伝子の多様性と感染症抵抗性の関連】
病原体の認識に関わるパターン認識受容体等の免疫系遺伝子では、豚の集団内に多くの遺伝子配列の違い(多型) が見られ、その中には病原体の認識に影響を与えるものがあります。病原体への応答に影響を与える多型のさらなる検出を進めるとともに、細胞レベル、あるいは豚個体のレベルで疾患への抵抗性・感受性にどのような影響があるのかを解析し、抗病性に優れた豚品種作出に寄与することを目指します。
主な研究テーマ
3 免疫系遺伝子を用いた新素材開発
極めて強い特異的結合活性を持つ抗体は、疾病診断・創薬やタンパク質機能解析などの用途に幅広い産業利用が期待される一方で、製造コストの高さが課題となっています。抗体の産業利用を促進するために、全く新しい観点から抗体活性を有する新素材を安価に大量に生産する必要があります。そこで、カイコ等での組換え抗体産生系により、加工性に優れたシルクの特性を活用するなどにより、病原体の検査や除去に役立つツールの開発等、有用な新素材の開発のための研究を進めています。
【抗体の機能を有する新規絹タンパク質素材の開発】
一本鎖化した抗体の一部分(scFv)を、絹糸の構成タンパク質であるフィブロインと結合したかたちで生産するカイコを、遺伝子組み換え技術により作出し、その繭から抗体活性を持つ「アフィニティーシルク」を抽出します。「アフィニティーシルク」は粉末やフィルム等、様々な形状への加工が可能であり、物質への特異的な結合活性を生かした様々な素材への応用が期待されます。