農作業安全コラム

歩行用トラクターで起こる事故

H30年7月 梅野 覚

 皆様は「挟まれる」、「転落する」、「巻き込まれる」と聞くと何を思い浮かべるでしょうか。「上司と部下との間に挟まれる」、「人生から転落する」、「面倒事に巻き込まれる」といったことを思い浮かべる方もいらっしゃるとは思いますが、本コラムでは農作業中等に歩行用トラクターによって起きている「挟まれ」、「転倒・転落」、「巻き込まれ」についてお話しさせていただきます。

 今年2月の中旬に農林水産省から「平成28年の農作業死亡事故について」の発表がありました(農林水産省HPより引用)。これを見ると、農業機械作業に係る死亡事故のうち、歩行用トラクターは11%を占めており、事故が多いことがわかります。その発生原因を見てみると、歩行用トラクターの死亡事故の多くは挟まれ、転倒・転落、巻き込まれによって起きているということがわかります。

 では、どのようにしてそのような事故が起きているのでしょうか。

 「挟まれ」では、後退時にビニールハウス内でのパイプまたは支柱や、果樹園の果樹、畑のそばの樹木など、背後の障害物に気が付かなかったり、背後に障害物がある状態で変速レバーを誤って後進に入れてしまったりして、障害物とハンドルとの間に挟まれる事故が多く起きています。後退時はクラッチを急に入れるとハンドルが跳ね上がるため、挟まれる危険性がさらに高くなります。後退時は背後の障害物を確認した上で、余裕を持って後退する必要があります。

 「転倒・転落」では、下り坂を走行中に路肩から転落した事故、ほ場の端に寄りすぎて転落した事故、ほ場内の畦畔を越える際に機体が傾斜し転倒してしまった事故など、道路走行時や作業時の不注意や操作の誤り、機体の思わぬ挙動によって事故が発生しています。道路走行中は路肩を確認すること(特に草が繁茂している路肩は注意が必要)、坂道ではサイドクラッチを切ったり、変速したりしないこと、畦畔の乗り越え時には畦畔と直角に進入することが必要です。また、土の固いほ場では、ロータリの回転で車体が急に前方へ押し出される現象(ダッシング)が起こる可能性があります。特に、ほ場の端を耕うんしている時は注意が必要です。

 「巻き込まれ」については、前進耕うん中に足がロータリに巻き込まれた事故や、後退耕うん時に転倒し、手や足が巻き込まれてしまった事故などが発生しています。移動時・旋回時・後退時は必ずロータリの回転を切ることや上記のダッシングに注意する必要があります。 

 繁忙期に差し掛かると猫の手も借りたいほど忙しいとは思いますが、事故が起きてしまうと経営上の打撃だけでなく、ご家族の方にも計り知れない苦痛・悲痛が伴います。くれぐれも農業機械の操作にはご注意していただきながら、農作業を行っていただければ幸いです。

 

キーワード:事故/安全装置・対策/歩行用トラクター/耕うん・代かき/運搬・移動/野菜/果樹
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