静岡大学農学部応用昆虫学研究室 廣森  創

コガネムシ類は土壌に生息する害虫類の中でも特にその防除が難しく、なおかつ、その幼虫の摂食による植物体への被害は甚大である。コガネムシ類幼虫の防除のためには、これまで有機リン系などの化学合成殺虫剤が多く用いられてきたが、現状においてより環境への負荷の少ない防除法が求められている。昆虫に寄生する天敵線虫を製剤化したコガネムシ類幼虫の防除資材が開発されており、実際の試験結果を含めて紹介する。

1 商品の概要および特徴
バイオトピアは、昆虫寄生性線虫Steinernema glaseri(スタイナーネマ・グラセライ)の感染態幼虫を、活性を持ったまま製剤化した生物農薬である(図1)。この線虫は、これまでに日本で登録されてきた昆虫寄生性線虫と異なり、線虫自らが宿主昆虫を探索して感染することから、今まで防除が困難とされてきた土壌害虫に対して、非常に殺虫効果が高い。さらに人畜に対する安全性が高く環境への悪影響も全く無い。
また、昆虫寄生性線虫は図2のような生活史を持つことから、宿主幼虫体内で次世代の線虫が増殖し、新たな感染源となる可能性を持っている。スタイナーネマ・グラセライの感染態3期幼虫は、2期幼虫の表皮で覆われている耐久型として土壌中に生息し、宿主昆虫と遭遇するとその開口部(口器、肛門、気門)から体内に侵入する。宿主侵入後、血体腔に移動した線虫は共生細菌(ゼノラブダス・ポイナリ)を放出し、この細菌が増殖することにより宿主昆虫は敗血症を起こして線虫侵入後24〜72時間後までに死亡する。線虫は増殖した細菌によって分解された宿主組織や細菌自体を摂食し、成虫へと成長し、さらに交尾し産卵する。孵化した幼虫は成長し、感染態の3期幼虫として体内に充満した後、体外に脱出し次の宿主を求めて分散する。

2 導入効果
本剤は薬剤の届かない土壌深部まで移動して効果を発揮する。
本線虫は殺虫活性温度域が15〜30℃と広いため、幅広い時期および多種の害虫に対して処理が可能である。
本剤は生物農薬安全性ガイドラインに基づく評価によって、ヒトだけではなく環境に対する影響についても問題が無いことが確認されている。
本剤は線虫の耐久型ステージを製剤化したので、他の微生物農薬と比較して化学農薬との混用適合性に優れている。
複雑な殺虫機構のため、対象害虫の抵抗性発達の可能性が無く、植物に対する薬害も無い。

3 試験事例
ヒラタアオコガネを対象とした試験事例を紹介する。
表1に示したとおり、スタイナーネマ・グラセライは25万頭/m2処理において、処理7日後ではスミチオン乳剤と比較して効果が低かったが、処理28日後では同等の効果を示した。また12.5万頭/m2処理においても十分な効果が得られた。

4 使用上の留意点
実用場面において十分な効果を得るためには、以下の点に留意する必要があると考えられる。
対象害虫のステージによって感受性が異なるので、害虫種とその発生時期を確認してから処理することが望ましい。
線虫は直射日光や乾燥に対して強くないので、散布を行う際には小雨・曇天が良く、晴天の日には日没後に散布を行うことが望ましい。
散布後、土壌中に線虫を到達させるために散布と同程度の水を後散水として行うとより効果的である。
化学農薬との混用時には適合性を確認する。




 
図1   製品の外観
 
図2   スタイナーネマ・グラセライの生活史
表1 Steinernema glaseri によるヒラタアオコガネの防除試験