地理情報システムによる湿原の変動解析
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[要約]
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地理情報システムを用いて航空写真を解析し、湿原に流入する河川の流路変化とそれに伴う河川放棄や冠水域変化などの水域の変動や土砂堆積、植生変動の特徴が明らかになった。
北海道農業試験場・農村計画部・情報処理研究室
[連絡先]011-857-9266
[部会名]農村計画(農業物理)
[専門] 情報処理
[対象]
[分類] 指導
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[背景・ねらい]
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貴重な動植物が生息し特異な景観をもつ釧路湿原の保全を図り、その周辺農用地等と調和的な管理をしていくためには、湿原の植生や水域の変動を正確に監視(モニタリング)しなければならない。湿原のモニタリングに必要な人工衛星や航空写真などのデータは点のデータ(ラスターデータ)であり、また地形図やGPS(全地球測位システム)のデータなどは線のデータ(ベクトルデータ)である。今回形式の異なるこれらのデータを総合的に解析することができる地理情報システム(GIS)を導入して湿原の植生や水域の変動解析を行う。
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[成果の内容・特徴]
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1.昭和22年から昭和63年までの航空写真を目視判読して湿原植生を分類し、ベクトルデータとしてGISに取り込み、植生分布の変動と各植生の面積変化を求めた(図1、図2)。これによりハンノキ高密度群落が増加傾向にあることが明らかとなった。
2.久著呂川の河川流路が変化し河川が放棄された地点(図3と図4の矢印)では乾燥化が進み、他の地点と比べてハンノキの樹冠径変化が大きく、成長が促進されることが分かった。
3.変化した流路は自然堤防の決壊箇所から湿原内に流入し土砂を堆積させる。その堆積の特徴は、堆積進行中の地点は土砂が露出しているのに対して、停止した地点ではヨシが繁茂していることである(図3、図5)。また写真撮影時期から推定すると久著呂川では土砂堆積活動期間はほぼ5〜10年である。この値は当然堆積期間中の河川流量に関係してくる。
4.土砂の湿原内流入には3に述べた自然堤防決壊型と増水時に水位が自然堤防を越えることで起こる洪水型の2種類があることが分かった。決壊型は決壊箇所を起点として扇状に土砂が堆積し、洪水型は河川両岸に帯状に堆積する。
5.湿原内の久著呂川上流に位置する直線的な改修堤防と旧河川とに挟まれた地域(図3A)は、増水時の旧河川からの水の流入により冠水域が増加しており、堤防建設による排水不良が原因と推定された。
以上のように、GISによる航空写真を用いた解析により、釧路湿原内に流入する久著呂川の流路変化とそれに伴う河川放棄や自然堤防の決壊、冠水域の変化などの冠水域の変動や土砂堆積の特徴、湿原植生の変動が明らかになった。
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[成果の活用面・留意点]
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今回導入したモニタリングシステムは、人工衛星、航空写真、GPS、地形図などの異なるタイプのデータを統合化し総合的なモニタリングが可能であるため、広域的な植生の分類や土地利用等の解析等に活用することができる。
[その他]
研究課題名:リモートセンシング手法を用いた湿原植生および水域の変動解析
予算区分:公害防止(湿原生態系)
研究期間:平成7年度(平成5年〜9年度)
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