大規模畑作畜産複合地帯における経営資源の農家間調整方式

 

[要約]多様な経営方式が混在する大規模畑作畜産複合地帯では、離農跡地とともに労働力や農作業の受委託(請負)等の経営資源の農家や集落間の調整を、農協等の調整主体が集落の特性に応じて進めることにより、農業生産の維持・発展が可能である。

北海道農業試験場・総合研究部・動向解析研究室

[連絡先] 011-857-9308

[部会名] 総合研究(農業経営)

[専門] 経営

[対象]

[分類] 研究

 

[背景・ねらい]

近年の農業経営は、経営外部化あるいは個別完結型への分化などの経営展開がみられるが、労働力不足や農地の分散・遊休化などの問題が生じている。今後は、これらの個別農家や集落全体の農業生産を維持・発展させるためには、農家間における資源の交換利用の調整等を集落や市町村レベルで行う地域営農システムが求められる。

大規模畑作畜産複合地帯には、畑作経営を主体にしながら酪農経営、酪畑経営、畑肉経営など多様な経営方式が混在し、しかも集落によりそれらの構成割合が異なる。ここでは、地域営農システムの主たる構成要素である労働力、農地、作業に注目し、集落の特性に応じた経営資源の調整方式を明らかにし、地域営農システムの設計に資する。

[成果の内容・特徴]

1. 十勝支庁音更町における集落は、その構成農家から畑専のみの畑作集落、酪農家主体の酪農集落、複合経営と畑専経営が混在する複合集落に区分できる。1993年の調査結果から得られた各集落や経営方式の動向予想は次の通りである。@農家の労働力構成は、酪農経営や複合経営では二世代労働力であるのに対し、畑作経営では一世代労働力が過半を占めるとともに高齢化が進んでいることから、今後は畑作経営における離農が予想される。 A畑作集落では農地需要が供給を上回るのに対し、酪農や複合集落では大規模志向農家がいなければ大幅な農地供給過剰状態へ移行する。B農作業時間は、畑作経営では季節変動が大きいのに対し、酪農経営では平準化しており、春作業において5月上旬までは酪農経営が畑作経営の甜菜移植作業等を請け負うことが可能である。

2. 1996年までの3年間に、対象集落では全56戸のうち5戸が離農し、農地面積は「畑作T」で増加している他はどの集落も減少し、1993年の予測がほぼ妥当している (表1)(表2)。同様に作付面積は、音更町は大豆の銘柄産地であるため全般に小麦から豆類への転換がみられるが、「複合」ではそばの増加、野菜の減少のように土地利用の粗放化、「畑作U」では野菜の増加と小麦・そばの増加のように集約化と粗放化の二極化、「畑作T」では若干の野菜の増加がみられ、集落レベルでみると農地需給に規定された土地利用が展開している。

3. 個別農家や集落全体の農業生産を維持・発展させるためには、離農跡地の利用調整とともに労働力やコントラクタを含む農作業の受委託(請負)等の経営資源の調整が1)で予想されたような各集落の特性に応じて進められなければならず、そのために調整主体の確立に基づく地域営農システムの形成が必要である。例えば音更町の場合では、農地は集落内の移動を基本としつつ、これら経営資源に関して畑作集落を受け手、逆に酪農集落や複合集落を出し手として位置づけた集落間の移動、さらに堆肥と麦わらの交換利用等を活性化させ物質循環量を増加することにより、地域営農システムを形成することができる (図1)

[成果の活用面・留意点]

1. 図1では異なる類型の集落が隣接していることを想定しているので、農地の移動については現地の実態に合わせた調整が必要である。豆類の増加は音更町に固有な現象である。

 

[その他]

研究課題名:地域複合営農システムの成立条件の解明

予算区分:実用化促進(地域総合)

研究期間:平成9年度(平成5年〜9年)

研究担当者:鵜川洋樹、吉川好文、細山隆夫

発表論文等:大規模畑作地帯における農業経営の構造再編 −十勝地域音更町を対象として−、北海道農試農業経営研究、67、1995

 

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