生態系に配慮した自然石護岸排水路の環境変化
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[要約]
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自然石を用いた排水路では、淵におけるアメマスの生息密度が瀬の4〜6
倍大きく、河床の粗砂の部分に貝の生息が多く、河畔の植生は整備後帰化植物を中心
に遷移する。
北海道立中央農業試験場・農業土木部・農村環境科
[連絡先]01238-9-2001
[部会名]総合研究(農業物理)
[専門] 用排水
[対象] 農業工学
[分類] 指導
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[背景・ねらい]
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農村環境を保全するため生態系に配慮した排水路の整備が試行錯誤的に進めら
れており、計画整備手法の確立が必要とされているので、自然石を用いた排水路におい
て、水温・魚や貝の生息環境・植生の変化を調査し、今後の排水路整備に関する基礎的知見を
得ることを目的にする。
[成果の内容・特徴]
- 排水路の整備においては河畔林の伐採が伴う。河畔林が残っている区間の
水温差(0.8℃)は、伐られた区間の水温差(1.9℃)の半分以下である。さらに、上流区間の
平成7年と8年の結果より、河畔林を伐る前の水温差はO.8℃で、伐った後は3.7℃にな
る(表1).これより河畔林は水温抑制効果がある。水温の過剰な上昇は魚類の生息に
悪影書を与えるため、排水路整備に関しては河畔林を極力残すか、植栽することが望まれ
る。
- アメマスの淵における生息密度が、瀬に比べて4〜6倍大きくなる(図2)。よ
って、整備においては落差工を設置することは、淵が形成されるため有効である。
- カワシンジュガイは、河床の土砂の粒径により生息数が変わり、粒径加積
曲線で50%通過する粒径であるD50がO.42〜2.0m(粗砂)の場合に生息が多い(図3)。これよ
り、貝の生息が確認される排水路においては、河床が粗砂で構成されるような
工法が必要であり、また、生息場所を設置する場合は、粗砂を河床材料に用いることが望ましい。
- 植生を草高で比較すると、施工後(H8年)のほうが施工前(H7年)より、調査
時期が1ヶ月程遅いのにも関わらず小さいため、施工の影響が見られる。また、出
現率の多い(10%以上)植物のうち帰化率を求めると、平成7年が8%、平成8年が40%になり、
帰化植物を中心とした推移が見られる。
(図1)
[成果の活用面・留意点]
- 本情報は、生態系に配慮した排水路の計画・整備における参考知見になる
が、事前調査においては、@河畔林の被覆状況、A生物の生態、B瀬と淵の個数と形態、C校
生の種類と生息場所などの調査項目が必要である。
- 本情報は、3年間という短期間の一事例の試験から引き出された結論である
から適用範囲には制限がある。しかし、計画・整備における参考知見として、また受益業家
に対する説明資料として有益である。今後、同様のデータを蓄積し、知見の普通化を図る必要
がある。
[その他]
研究課題名:生態系に配慮した排水路の整備計画手法の開発
予算区分:道費
研究期間:平成9年度(平成7〜9年)
研究担当者:山田雅彦・寺元信幸・長谷川昇司
発表論文等:なし
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