胚培養および胚珠培養による花ユリ種間雑種の作出と評価
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[要約]
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花ユリの胚培養での胚の発芽率は、置床胚が大きくなるに従って高まる。花
ユリの遠縁種間雑種作出には、1〜2ヶ月間の胚珠培養後に胚培養を行う方法(胚珠−
胚培養法)が、高率で発芽個体・健全個体が得られ、かつ操作が簡単で、効
率的である。胚培養および胚珠培養により育種素材として6000を越える種間雑種個体
を作出し、現在評価中である。
北海道立中央農業試験場・生物工学部・細胞育種科
北海道立花・野菜技術センター・研究部・花き第一科
[連絡先]01238-9-2001,0125-28-2800
[部会名]基盤研究
[専門] バイテク
[対象] 花き類
[分類] 研究
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[背景・ねらい]
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北海道のオリジナルな花ユリ品種、北海道に適する花ユリ品種が期待さ
れている。本試験では、種間雑種作出に有効な胚培養および胚珠培養に
おける培地条件、培養手順を検討し、効率化、安定化を図るとともに、
育種素材となる種間雑種を作出し、評価する。
[成果の内容・特徴]
- 胚培養時の置床胚の大きさが胚の発芽におよぼす影響を検討した結果、胚
が大きくなるに従って発芽率は高くなる傾向である。発芽率は、0.1〜0.2mmの
極微小胚では10%以下、1mmを越える大きな胚では70%を越える。L(ロンギフ
ロラム・ハイブリッドとその原種)×O(オリエンタル・ハイブリッドとその原
種)、O×A(アジアティック・ハイブリッドとその原種)の交配では、得ら
れる胚の多くが0.1〜0.2mmの極微小胚で発芽率は極めて低いが、1〜2ヶ月の胚
珠培養後に胚を摘出すると胚珠内で胚が生長し、生長した胚の発芽率は高くな
る(表1)。
- さく果を採取後、すぐに胚培養を行うより、胚珠培養を1〜2ヶ月間ほど行
い、発芽個体を継代培地に移植し、未発芽の胚珠について胚を摘出し胚培養を
行う方法(胚珠−胚培養法)は、操作が簡単であり、かつ高率で発芽個体・健
全個体を得ることができる(表2)。
- 1992年〜97年の6カ年間、花ユリの育種素材作出のために種間交雑を行
い、胚培養および胚珠培養により多数の種間雑種個体を得ている。1996年まで
の5カ年間で6239個体を鉢上げし、このうち品種群の異なる遠縁種間雑種は
2661個体である(表3)。その約2/3はL×Aの交配によるもので、その他、L
×OおよびO×Aの交配では、それぞれ200以上、100以上の雑種個体を得てい
る。
- 1993〜95年に、交配、培養により作出した生存する2259個体の種間雑種の
うち、1996年および1997年に開花した377個体(このうち遠縁種間雑種は183個
体)について、その特性を調査した。O×Aの交配では、6組合せの6個体が開
花し、花粉親に特有の橙、黄色系の花色の個体が得られた(表4)。
[成果の活用面・留意点]
- 花ユリの育種において、遠縁種間雑種獲得のための簡便で、効率的な手法
として、胚珠−胚培養法を積極的に利用する。
- 本試験で作出された種間雑種個体については、開花個体より順次、育種素
材としての評価、選抜を進め、戻し交雑親等の育種母本として有望な個体につ
いては、新たな交配での利用を図る。
- 新品種として有望な個体については、各種の検定試験等を行い、選抜を進
める。
[その他]
研究課題名:細胞・組織培養による花ユリ種間雑種の作出試験
花ユリ育種法の開発と育種素材の作出
予算区分 :道費
研究期間 :平成9年度(平成4〜9年)
研究担当者:玉掛秀人、大宮 知、筒井佐喜雄
発表論文等:なし
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