セレン補給による牛の感染防御機能の増強


[要約]
分娩前の血清セレン濃度が低かった乳用牛(50ppb以下)に対するセレンおよびビタミンEの補給 は、潜在性乳房炎の発生を低減させる傾向が認められた。
北海道立新得畜産試験場・生産技術部・衛生科
[連絡先]01566-4-5321
[部会名]畜産・草地
[専門]   診断予防
[対象]   家畜類
[分類]   指導

[背景・ねらい]
近年、乳用牛では乳房炎や繁殖障害等の生産病が増加し、供用年数が年々短縮している。 一方、海外ではセレン(Se)の補給による乳房炎や胎盤停滞の予防への臨床応用が試みられて いる。そこで、本研究ではSeレベルと感染防御機能との関係について基礎的検討を加えると ともに、Se補給による潜在性乳房炎の予防について検討した。

[成果の内容・特徴]

  1. 繋留飼養した乳用牛に対するSe含有固形塩(Se:15mg/kg)の給与は、個体によって舐食 量 に差はあったが、血清Se濃度および血液グルタチオンペルオキシダーゼ(GSH-Px)活性 には十 分な上昇がみられた。
  2. Se・ビタミンE合剤(ESE,Se:2.5mg/ml,ビタミンE:68IU/ml)を分娩前の母牛に15ml、 出 生子牛に2ml注射することにより、子牛における血清過酸化脂質の上昇が抑制された。
  3. 育成牛に対するSe酵母の給与(Se:0.5mg/体重100kg/日)により、血清Se濃度および血液 GSH-Px活性が高まるとともにリンパ球幼若化能が高まる傾向がみられた。
  4. 母牛に対するSe酵母の給与(Se:0.525mg/体重100kg/日)は、子牛における好中球殺菌能 およびリンパ球幼若化能を増強させる傾向を示した(表1)
  5. 母牛に対するSe酵母の給与とその子牛に対するESEの注射によるSeレベルの上昇により、 Haemophilus somnusワクチン接種後における子牛の抗体価が持続する傾向がみられた。
  6. 分娩前の血清Se濃度が低かった経産牛(30ppb)では、分娩3週前におけるESE10mlの注射 により(40ppbに上昇)、乳汁体細胞数30万/ml以上の頭数が減少する傾向がみられた (p=0.12)(図1)。血清Se濃度がきわめて低かった初産牛(20ppb)では、血清Se濃度を十分 に上昇させるまでには至らず、乳汁体細胞数の低減効果が認められなかった。
  7. 分娩前の血清Se濃度がやや低かった初産牛(40ppb)では、分娩3週前におけるESE20mlの 注射により(50ppbに上昇)、乳汁体細胞数30万/ml以上の頭数が減少する傾向がみられた (p=0.11)。血清Se濃度が高かった経産牛(50ppb)では、効果が認められなかった。これらの ことから、Seが不足する乳用牛へのSe補給により、潜在性乳房炎の発生を低下させる可能性 があること、また血清Se濃度としては、50ppb以上あることが望ましいことが示 された。

[成果の活用面・留意点]

  1. Se補給の具体的方法としては、@Se含有固形塩の継続的な給与、A分娩3週前におけ る ESE(1ml/体重45kg)の注射、B分娩1カ月前〜分娩時におけるSe酵母の飼料添加給与 (Se量と して1日0.2-0.4mg/体重100kg)等がある。また、Se含有固形塩を給与する場合、 牛が十分舐 食できるように設置場所や個数等を配慮する必要がある。
  2. 初産牛は経産牛に比べ、Seが欠乏しやすいことから、分娩前のSe補給について配慮す る 必要がある。

[その他]
研究課題名:セレン補給による牛の生体機能増強に関する試験
予算区分 :道費
研究期間 :平成9年度(平成4年〜8年)
研究担当者:松井義貴、平井綱雄、森 清一
発表論文等:なし
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