北海道酪農の収益構造と経営展開メカニズム


[要約]
北海道酪農は急激な規模拡大によりその生産力を増大してきたが、その内実は頭数規模拡大と個体乳量増大に偏った経営展開であり、そのあり方は、短期的な経営行動に規定され、費用と収益の長期的あり方を表す収益構造とは乖離しつつある。
北海道農業試験場・総合研究部・動向解析研究室
[連絡先]011-857-9308
[部会名]総合研究(農業経営)
[専門]経営
[対象]
[分類]研究

[背景・ねらい]
我が国における土地利用型畜産の典型とされる北海道酪農においても、飼養頭数規模の拡大が飼料作面積の拡大テンポを上回って進み、土地利用型畜産は形骸化しつつある。ここでは、北海道酪農が経営環境の変動に伴い、このような経営構造に立ち至った展開メカニズムを明らかにするため、経営環境のなかで最も普遍性の高い価格変動に注目し、1990年代前半までの酪農経営の動向を、収益性と経営展開を結びつける視点から分析する。

[成果の内容・特徴]
  1. 酪農をめぐる交易条件は、1980年代前半までは販売・購入の両面において右肩上がりの価格推移を示し、生産調整の制約がなければ、規模拡大などの経営展望の描きやすい時期である(表1)。一方、1980年代後半以降は乳価の低下、乳牛価格の暴落や濃厚飼料価格の上昇により、経営環境は次第に厳しくなる。その間、北海道酪農は、経営規模拡大による生産力の増大を急速に進めたが、それは頭数規模拡大と個体乳量増大に偏った経営展開であり、飼料生産の発展は限られていたため、輸入濃厚飼料への依存が深化し、非効率で不安定な飼料構造となる(図1)
  2. 個別農家の農業所得は、1.経産牛頭数が多いほど(図2)、2.同程度の頭数規模では個体乳量が高いほど(図3)、3.頭数規模と個体乳量が同程度のなかでは、経営費用が小さいほど、大きい。したがって、短期的な収益性上昇を目指した経営行動としては、頭数規模の拡大や個体乳量の増加に基づく多投入多収益型の経営展開が一般的となり、飼料生産に基づく費用節約的な経営展開は現れ難い。
  3. 北海道酪農の収益性は1990年までは概ね上昇基調にあり、その後は停滞に転じている。牛乳の生産費と収益性は1980年までは並行的に動いていたのに対し、その後は相反する動向を示す(図4)。このような変化は、交易条件の変化に規定されている。
  4. 北海道酪農の収益構造は1980年を境に大きく変化したにも拘わらず、その経営展開は、短期的な経営行動に規定され、飼養頭数規模の拡大と個体乳量の増加という画一的な動向を示したことから、収益構造の長期的なあり方との乖離が進みつつある。そのため、1990年代に入り交易条件が悪化すると、収益性は増加基調から停滞へと大きく変化している。同時に、これまで収益性の増加基調の下で潜在化していた、乳牛の疾病増加や供用年数の減少、多頭化に起因する過重労働意識が表面化してきた。

[成果の活用面・留意点]
  1. 北海道酪農の発展方式を研究する際の基礎的知見として活用できる。但し、経営環境のなかの価格変動に関わる経営展開に限定した分析結果である点に留意する必要がある。

[具体的データ]

[その他]
研究課題名:酪農経営における飼料生産の展開メカニズム
予算区分 :経常
研究期間 :平成10年度(平成8年〜10年)
発表論文等:北海道酪農の収益構造と経営展開,農業経済研究,70巻1号,1-9,1998

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