乳牛糞尿の曝気量の目安
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[要約]
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曝気処理の終了は、「臭気の低減が図られ、曝気状態も急激な発泡がなく安定した状態を維持できること」を条件とすると、1.残汚泥がない場合:積算曝気量が原物1tあたり約100m3になった時、2.残汚泥がある場合:積算曝気量が原物1tあたり約80m3になった時を目安とする。
北海道立根釧農業試験場・研究部・酪農施設科
[連絡先]01537-2-2004
[部会名]総合研究(農業物理)畜産・草地(畜産)
[専門]農業施設
[対象]乳用牛
[分類]指導
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[背景・ねらい]
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近年、経営規模の拡大等による飼養頭数の増加に伴い、家畜糞尿による悪臭などの環境汚染が問題となっている。スラリーは生状態での散布が多く、糞尿の取り扱い性、散布時の臭気および散布後の牧草収量等に多くの問題が指摘されている。そこで、適正な曝気処理で糞尿の臭気低減と取り扱い性の改善を図るとともに、実規模施設による運転方法と曝気効果を明らかにする。さらに、乳牛スラリーに対する曝気処理の影響を、牧草地に対する施肥効果から評価する。
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[成果の内容・特徴]
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曝気槽を空にして固液分離液14.63m3(水分96.10%)を投入し、曝気量168m3/日でバッチ処理方式の曝気をすると、曝気開始から4日目から急激な発泡がみられ、7日目まで継続するが、食用油の投入により、消泡が可能である。処理液の温度は15℃から徐々に上昇し、6日目で20.1℃となり12日目は17.3℃程度となる。pHは2日目で8.81、10日目で9.01となり、ORPも11日目には+99mVとなる(表1、3)。
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一般的なバッチ処理運転方法を想定し、汚泥5.73m3を残して、新たに固液分離液13.35m3(水分95.11%)を投入し、曝気量126m3/日で曝気をすると、急激な発泡はなく、曝気液を上部から散水するだけで十分消泡が可能である。処理液の温度は、17.8℃から上昇し6日目で25.1℃となり、12日目で22.1℃となる。pHは開始時に8.02で、10日目に8.89となり、ORPは-187mVから一旦低下し、数日間-350mV程度を維持した後、上昇し11日目で+12mVと変化する(表2、3)。
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曝気終了時の条件を、「臭気の低減が図られ、曝気も安定した状態を維持できる」とすると、1.空の曝気槽に原料を入れて曝気をした場合:積算曝気量(m3)が原物(t)の約100(乾物(kg)で2.0)倍になった時、2.残汚泥がある曝気をした場合:積算曝気量(m3)が原物(t)の約80(乾物(kg)で1.5)倍になった時を曝気処理終了の目安とすることができる。このようにすると、アンモニア態窒素は20%程度低下する。この時のORPは-100mV以上の値で、処理液の色は「暗褐色」から「黒褐色」である(表3)。
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希釈法による立ち上げでは、急激な発泡に対して投入を休止して対応したが、安定した状態を維持するのは難しい。これに対し、あらかじめバッチ処理で立ち上げを終了させてから連続投入試験に移った場合には、1日の投入量(2.25t)に対する積算風量を96〜101倍(216m3/日〜228m3/日)に設定して運転することで、急激な発泡状態を越えた安定した状態を維持できる。
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曝気処理によって、スラリー中のアンモニアが揮散するため、肥料成分が減少し、牧草の収量低下が認められる。また、スラリーに曝気処理をしても、施用窒素の吸収利用率等に影響はない(表4)。
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[成果の活用面・留意点]
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乳牛糞尿の曝気処理をする場合には、固液分離液を用いる。
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曝気処理施設は、アンモニア揮散や臭気の拡散防止のため、ビニールハウス等で覆い、さらに各曝気槽をビニールで覆う必要がある。
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曝気したスラリーを草地に施用する場合は、養分含量を把握して適正な施肥対応を実施する。
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立ち上げ時には特殊な菌などを用いなくとも、約2週間で種汚泥を形成することができる。
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処理液量の0.05%容量の食用油等を投入すると消泡が容易になる。
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オーバーフロー用のパイプは、寒冷時に凍結するので、断熱・保温をする必要がある。
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臭気が低下した曝気処理液でも、嫌気状態で貯留されると臭気強度が上昇するので、少量の曝気を継続する必要がある。
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[平成10年度北海道農業試験会議成績会議における課題名および区分]
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課題名:乳牛糞尿の曝気処理技術の確立(指導参考)
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[その他]
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研究課題名:乳牛糞尿の曝気処理技術の確立(指導参考)
予算区分 :共同研究(道立相互)
研究期間 :平成8年〜平成10年
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