肉用牛における発酵床畜舎の維持管理法


[要約]
肉用牛繁殖牛を用いて発酵床方式を試行し、発酵床の維持管理法を検討した。発酵維持のためには、週1回の表層撹拌と敷料追加が効果的であった。敷料資材としてはオガクズよりモミガラが発酵促進の観点で優れていた。飼育密度は肉用牛繁殖牛で10m2/頭程度が可能であった。家畜の健康悪化、尿汚水の地下流亡等の問題は発生しなかった。
北海道立新得畜産試験場・生産技術部・環境資源科、家畜部・肉牛飼養科
[連絡先]01566-4-5321
[部会名]畜産・草地
[専門]農業施設
[対象]家畜類
[分類]指導

[背景・ねらい]
発酵床方式は糞尿を日常的に畜舎外に搬出する必要がないため、糞尿処理労力・コストが低減されるという特徴をもつ。もともとは養豚で発展した技術であるが、糞尿処理に悩む肉牛・酪農経営から注目されており、技術の確立が求められている。そこで、新得畜試の発酵床方式畜舎で肉用牛を試行的に飼育し、発酵床の維持管理方法について検討した。

[成果の内容・特徴]
  1. '96年10月から'98年8月まで、ビニルハウス式発酵床畜舎(図1)で肉用牛繁殖牛を10〜14m2/頭の密度で飼育した。発酵床表層の水分を70%以下とすることを目標に管理方法を検討した。
  2. 発酵床の発酵は、週1回の敷料追加による水分調整および表層撹拌による通気性確保により維持された(図3)。発酵促進により表面の水分が低く抑えられると考えられた。
  3. 発酵床の温度推移(図2)から、敷料をモミガラとした期間は冬季も活発な発酵が維持されており、体重420〜440kgの牛を10m2/頭程度の密度で飼育可能と考えられた。敷料がオガクズの場合は、床表面が圧密化し発酵が抑制される傾向があり、冬季は敷料追加量の増量により表層の湿潤化を防止する必要があった。敷料追加量はモミガラ:0〜15l、オガクズ:18〜48l頭/日であった。
  4. 牛房(図1)の底に通気用パイプを埋め込み強制通気したところ、温度はやや高く推移し、発酵促進の可能性が示唆された(図2)。
  5. 発酵床の厚さは冬季の断熱性を確保するためには90cm程度必要であると考えられた。
  6. 家畜の休息行動、健康状態への悪影響はみられなかった。
  7. 試験終了時に調査した発酵床および底部土壌の養分濃度の縦分布(図4)から、排糞尿中成分が発酵床内を顕著に下方向に移動している形跡はみられなかった。しかし、本試験における畜舎構造の欠陥から発酵床底部に雨水が流入してしまったことにより土壌への養分滲出がみられた。
  8. 酪農家における発酵床方式導入2事例を調査した。2事例は発酵床の構造、管理方法が大きく異なっていた。両牧場とも現在、乳生産・乳房炎への悪影響は現れていない。

[成果の活用面・留意点]
  1. 本成果は当面、肉用牛・乳用育成牛において適用する。泌乳牛に利用している酪農家では本試験で示した発酵床維持にかかわる基本技術を活用する。
  2. 発酵床内で尿汚水の顕著な縦移動は認められないが、発酵床に雨水が流入した場合に養分滲出の危険性があるので畜舎の構造には十分留意する。
  3. 虫卵検査等、健康状態の把握を心がけ、基本的な衛生管理プログラムを実行する。

[平成10年度北海道農業試験会議(成績会議)における課題名および区分]
課題名:肉用牛における発酵床畜舎の維持管理法(指導参考)

[その他]
研究課題名:バイオベッド方式による家畜の低コスト省力管理システムの開発−肉用牛−
予算区分 :道費
研究期間 :平成7〜10年度
発表論文等:田村忠,杉本昌仁,前田善夫,肉用牛飼養への発酵床方式導入の検討,第93回日本畜産学会大会講演要旨(1997)

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